Protect yourself at all times./(時評)
- 2017/03/30(Thu) -
 栃木県で雪山訓練中の高校生たちと教諭が雪崩に巻き込まれ、8人が亡くなる痛ましい事故が起きた。

 被害にあった方々のご冥福をお祈りします。

 そして残念なことに、この雪崩事故については、雪崩ビーコンなど装備の不備、雪崩が頻発することが知られていた斜面でのラッセル訓練の実施、事故発生からの救助要請の遅れなど、主催者側のさまざまな危機管理の甘さがが指摘されている。



 高校時代は山岳部に所属し、アラスカのユーコン川やタクラマカン砂漠、パミール高原など辺境の旅をしていた20代の頃、私はイギリスに本部を置く冒険教育機関アウトワード・バウンドの長野校で、野外教育者養成のための訓練コースに参加した。

 あれから26年が過ぎた今もしっかりと私の脳裏に刻まれているのは、「野外では常に、まず自己の安全を確保せよ」という教えだ。

 レジャーでもあるいは救助活動でも、アウトドアではまず自己(および自分たちパーティ)の安全確保を優先すること、これが大原則である。

 先駆的アルピニズムを行う一部の先鋭的登山家や、リスク覚悟で活動する冒険家を除いて、一般的な野外活動愛好家によるアウトドアでの事故の多くは、「自己の安全確保優先」という原則をおろそかにしたことが原因となって起こっていることがほとんどだ。

 今回の栃木の事故の場合、指導を行う人々、主催者や指導者に、こうした「安全確保」の意識が薄かったことが、根本的な原因にあるように思えてならない。



 春の雪山で表層雪崩が起きやすいのは、中堅どころのアウトドアズマンであれば常識的な知識であろう。

 その上で、訓練地域である当該スキー場では、彼らの滞在初日に事故現場とは別の場所ながら雪崩が発生していたこと。その後、夜間に大量の積雪がったことなどを勘案すれば、「このフィールドで自己および自己パーティの安全が確保できるのか」は、おのずから判断できたのではあるまいか?

 そしてなにより致命的なのは、指導者や訓練生たちが、雪崩ビーコンやゾンデ棒を装備していなかったことだ。

 近年、特に中高年のビギナー登山者の中に、ツェルトやコンパス、非常食などを携帯せず、フォースト・ビバークの知識・経験・装備がないままに山行に望み、遭難して低体温症や滑落などといった事故を起こす人たちがいる。

 野外活動において、「備えよ、常に(ロバート・ベーデン=パウエル卿)」は、アウトドアズマンの基本の「キ」だ。

 今回の事故では、雪崩ビーコンもゾンデ棒も未装備という状態でラッセル訓練を行うのに、当該地域は適切なのかを指導者たちは十分に検討したのだろうか?

 検討をしたとして、それは気象データや地域特性を考慮した、客観的で科学的な事実に基づく判断であったのか?

 主観的な思い込みによる、「ラッセル訓練ぐらい、大丈夫だろう」「スキー場だから、安全だろう」といった、安易な状況判断でなかったか?

 このあたりをきちんと検証した上で、単なる責任追及にすることなく、今回の教訓を活かして同じような事故を再び起こさないことが、事故で亡くなった方たちに対する、関係者たちの償いであり使命であろう。

 今回のケースでは、訓練を受ける学生たちは、指導者へ自己の安全を付託しているだから、「自己および自己パーティの安全確保」に対する責任は、指導者たちにあることは明白だ。

 この点について、指導者たちに認識の甘さがあったのが残念でならない。



 もう1つ、今回の事故に関連して思うのは、高校山岳部における活動規制についてだ。

 私が高校で山岳部に所属していた四半世紀前、冬山登山とロッククライミングは部活動としては禁止されていた。このため私は、地元の勤労者登山会に入会し、冬山登山とロッククライミングについて個人的に訓練を受けた。

 報道によれば、現在も高校生の部活では、冬山登山は原則禁止されているようである。

 ところが今回のケースでは、「冬山登山」の訓練ではなく、「春山登山」の訓練だということで許可され、長年に渡り実施されてきたのだという。

 思うに、こうした詭弁というか、規制の言葉尻をとらえた脱法的なやり方そのものが、今回のような痛ましい事故につながっているように思えてならない。

 たしかに3月は、季節的には「春山」であるが、フィールドとしての山岳は、いまだに積雪に包まれている。だからこそ、雪上訓練の場所となるわけだが、一方で冬の山よりも春の山は、はるかに雪崩のリスクが高い。

 こうした社会的要因と自然のリスク要因が混在する春の雪山というフィールドで、技術未熟な学生たちを対象に、雪上訓練を行うことは果たして適切なのか?

 むしろ、「高校生の冬山登山禁止」といった形骸化した規制を見直し、春山よりもリスクの低い冬季の適切な山域において、十分に安全確保をした上で雪上訓練をすべきだと私は思う。

 「危険だから教えない」という、きわめて日本的な思考があるゆえに、その建前の隙間をくぐるような姑息な条件での活動が、ひいては危機管理の低さ、状況認識の甘さにつながっているのではないか?

 雪山にせよ、ロッククライミングにせよ、夏山でもあるいは登山以外のあらゆるアウトドアスポーツにおいて、それが自然という存在を対象にする以上、そこには必ずリスクが存在する。

 だからこそ、リスクから目をそらしたり規制して若者たちを遠ざけるのではなく、熟練したベテラン指導者たちが万全の配慮をした上で、きちんとした指導と訓練を実施し、アウトドアにおける危機管理能力を育てていくべきだろう。

 こうした意味で、今回の事故により、若い人たちに対する野外教育訓練に関する規制が強まるようなことがあれば、それはむしろ次の事故の遠因になりかねない。

 リスクを恐れ、いたずらな規制で自然から若者たちを遠ざけるのではなく、それに対峙するための知恵と技術を、しっかりと指導するのが、私たち大人の役割だといえるだろう。

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 (了)
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