流祖が示す課題/(柳剛流)
- 2017/06/18(Sun) -
 飛び違いによる斬撃は、かつて不世出の女武芸者・園部ひでををして、「跳斬之妙術」と言わしめた、 「断脚之法」と並ぶ柳剛流の特長である。

 古流剣術諸派には、同じような飛び違いを用いる形のある流派も見られるし、あるいは現代武道である空手道や打撃系格闘技でも、こうした体の使い方は、「スイッチ」とか「スイッチステップ」などといって、組手やスパーリングによく用いられる。

 例えば私が学んでいた玄制流空手道には、土佐邦彦先生が制定された「五本組手」という、玄制流ならではの独自色の強い技をまとめた約束組手があるのだが、その中の1つに、こうしたスイッチステップ=飛び違いを用いる業があった。

 具体的には、彼我、互いに左半身に構え、相手が右中段追突きにくるところを、我はその場で飛び違いながら右半身になりつつ相手の突きを内受け(自分の体の外側から内側へ向けての受け)し、右上段裏拳打ちで極める、というものである。

 このように、「飛び違い」そのものは、柳剛流以外に皆無の技というものではないけれど、柳剛流の特筆すべき点は、この飛び違いを初学の切紙から目録、そして免許秘伝の長刀まで、一貫した「術」=体の使い方の根幹に置いていることであり、その体の使い方を修行人に学ばせるための、明確な体系としての「形」の階梯が整備されている点にある。



 これまで本ブログでたびたび指摘しているように、柳剛流の術の根幹を練り、しかも極意に至るあらゆる要素が内包されているのが、修行人がまず最初に学ぶ「右剣」と「左剣」の形だ。

 当然ながら飛び違いについても、この2つの形に、術の基礎と応用が凝縮されている。

 さらに柳剛流を修行する者として、「深いなあ」としみじみ思うのが、まず最初に「右剣」を学び、次いで「左剣」を学ぶという順序=階梯だ。

 具体的な術技やポイントは師伝のためここでは詳述しないが、飛び違いは、まず一番最初に学ぶ「右剣」の形に含まれるのだが、次に学ぶ「左剣」においては、さらに高度な体の使い方による飛び違いを要求されるのである。

 柳剛流の跳斬之術は、切紙の剣術や居合で学ぶものが楷書、目録の剣術・柳剛刀で学ぶのが行書、そして免許秘伝の長刀が草書というような明確な階梯となっている。

 同様に、切紙で学ぶたった2本のみの剣術形でも、1本目の「右剣」と2本目の「左剣」は、明確な上達への階梯関係、あるいは修行者へ求められる課題の高度化が示されているのである。

 ありていに言えば、1本目の「右剣」で行われる飛び違いに比べると、2本目の「左剣」の形で行う飛び違いは、はるかに難しいのだ。

 これは流祖・岡田惣右衛門から突き付けられた、柳剛流を学ぼうという修行人への大きな課題である。

 同じ飛び違いでも、「右剣」の飛び違いに比べ、「左剣」の飛び違いは、たいへんシビアな状態からの動作を求められる。筋力を使った単純な跳躍では、「右剣」での飛び違いはなんとかなっても、「左剣」での飛び違いはいかんともしがたいのだ。

 そこで、以前にも本ブログで記したが、「地(床)を蹴らずに飛び違う」ことが求められる。

 これができて初めて、目録で学ぶ柳剛刀に示される柳剛流ならではの実践刀法が遣えるようになり、重厚長大な長刀を飛び違いながら用いる免許秘伝の長刀への道が開けるのである。



 こうした意味で、私自身、今でも「右剣」と「左剣」の稽古は欠かさず特に心を砕いており、ことに「左剣」の形は、「なんでこんなに難しいのだ?」と、己の未熟さを痛感させられることしきりだ。

 200有余年の時を経て流祖が示す課題に取り組むというのは、古流の武芸を学ぶ者だけが知る厳しさであり、そしてまた大きな喜びでもあるといえるだろう。

1705_松代演武_柳剛流左剣
▲柳剛流剣術「左剣」

 (了)
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