夏休み(武術・武道人)の課題図書/(書評)
- 2009/08/12(Wed) -
 昨年から、兵法をもう一度考え直してみようと、武経七書の精読に改めて取り組もうと思い立った・・・。

 ・・・のだが、結局、『六韜』と『三略』を再精読した段階で、「まあ結局、『孫子』以外は、死ぬまでにヒマな時間を見つけて、おりおりに読めば良いか・・・」と納得してしまった。

 というのも、武人のバイブルたる『孫子』と読み比べると、所詮は『六韜』も『三略』も、理屈先行の儒臭がきつすぎるのである。こうした点で、平成の武人の必読書として考えても、『孫子』の方が遥かに高いレベルの兵法を示していることに、いまさらながら改めて納得したわけだ。


 兵書としての『孫子』のリアリズムは、本邦の書物で言えば『五輪書』の合理主義哲学にも共通する。

 「寄せ集めの農民兵を精兵にするには、必死に戦わなければ全滅は必至、絶対絶命の『死地』へほうりこめ! さすればプロフェッショナルでない農民兵も、生死を省みず死に物狂いで戦うだろう」(孫子・九地篇)という孫子の徹底的なリアリズムは、「立ち合いでは、相手の顔面を突け。その気概を技でも気迫でも示し、相手をビビッらせて居付かせろ!」(五輪書・水之巻)という、武蔵の示す極めて具体的な斬り合いの勝口に通じるものだ。

 こうしたリアルさに比べると、「義にかなえば、たとえ小国でも大国に勝てる」的な儒学臭がそこここに感じられる『六韜』や『三略』の箴言は、帝王学の古典としては一級でも、実学たる兵法としては、あまりにナイーブだ。

 なお、現在、『孫子』に関する書籍はあまたが出版されているが、その多くが、「ビジネスに活かす~」とか、「人生の指針~」など、本来の『孫子』がもつ兵書としての鋭さをスポイルしてしまうような、生ぬるい意訳・解説の書籍だ。

 そういう意味で、原典の鋭い箴言にふれつつ、だれでも気軽に入手できるアクセスの良さという点も含めて考えると、まずは『新訂 孫子』(金谷治訳注 /岩波文庫)で原文のエッセンスを味わっていただきたい。ワンコイン+αの値段で、太古の兵法の極意に触れられるのだから、安いもんである。

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▲『新訂 孫子』(金谷治訳注 /岩波文庫)


 岩波版で原文のエッセンスをじっくり味読しつつ、実際的な兵法として『孫子』を理解するためには、さらに『新訳 孫子 ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法』(兵頭二十八訳/PHP研究所)を徹底的に読み込むことをオススメする。

孫子2
▲これ抜きでは『孫子』は語れない、まさに平成の名著である。


 なお、中公文庫BIBLIOSの『三略』(眞鍋呉夫訳)の巻末の解説も兵頭師が執筆しており、武経七書における『三略』や『六韜』の位置づけ、またその歴史的なあり様などについて、たいへん興味深い論考が示されている。

三略
▲兵頭師の解説を読むためだけでも、購入する価値がある

 ことに、実は戦国時代の本邦では、朝倉家など碩学の有力武将レベルでも『三略』や『六韜』の素読程度の理解がせいぜいで、『孫子』にいたっては、きちんと理解できる者はほとんどいなかったであろう・・・、という指摘は、一読の価値があろう。

(了)
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