柔術の視点から見た、空手道の分解についての一考察/(武術・武道)
- 2009/09/16(Wed) -
 この前、「手首の記憶」と題して、柔術のことを書いたので、それに関連して以前から気になっていたことを、ここでひとつ。

 財団法人全日本空手道連盟(全空連)の第2指定形に、「カンクウショウ」という形がある。

 この形は護身術的な接触技法が多く、個人的に好きな形である。

 そしてこの、カンクウショウの形の代表的な技(挙動)のひとつが、「中段の掴み受け」だ。

 この技は、「両拳開掌、左肘の下から右掌で円を描き、左掌は右手首を上から添えて右掌中段掴み受け。左掌右手首上添え手」(『第2指定形 空手道教範』財団法人 全日本空手道連盟 中央技術委員会編著より引用)というものである。

 空手道の経験のない人には、上述の説明ではよく分からないかもしれないと思うが、ようは柔術で言うところの「小手捻りの逆手とり」であり、実態としては合気道の二教や二ヶ条と同種の技である(以下、「小手捻りの逆手とり」と表記する)。

 「小手捻りの逆手とり」は、柔術はもちろん、短棒術や鉄扇術、居合や剣術の柄捕りなどでもよく見られる、日本武術におけるきわめて普遍的な手首に対する逆技である。

 しかし、上記の全空連の教範では、その分解について「相手の中段突きを、腰を左に捻り逆半身になりながら、右拳を開き、左肘下から円を描き、物を掴むように受け、左掌は右手首を上から掴むように引き寄せる」と解説されている。

 さて・・・。まずそもそも、相手の突きを掴めんのか?

 という疑問もあろうが、それはそれ、古流の口訣にそのあたりのコツも伝わっているので、まあ、よしとしましょう(※1)。

 それよりも、なによりも、同教範では、「左掌は右手首を掴む~」のところの分解で、相手の右手首ではなく、自分の手首を掴んでるわけです。

 なんで、自分の手首を掴む?

 いや、もちろん、形を打つ(演武する)際に、自分の左手で自分の右手を掴むのはいいわけです。

 空手の形は、居合と同じように、一人で行う単独形ですから。

 形の演武では相手がいないわけですから、表現として自分で自分の手首を掴むのは、挙動としてなんらおかしくはないわけです。

 しかし分解(相対型)で、それをそのままじゃあ、まずいでしょう。

 教範の分解解説によると、相手の右中段追突きを、右の掛け手で受ける。ここまでは良しとしよう。それを引き寄せる際に、掛け手で掴んだ相手の掌や手首ではなく、なんと自分の右手首を、自分の左手で掴んで引き寄せてるわけです。

 なんで???

 ちなみに2年ほど前、私が住んでいる地域の連盟の指導者講習会でも、同様の分解の解説をされていたんですがねえ・・・。

 この分解、かなり無理があると思うのは、私だけだろうか?


 まあ、形の分解というのは、1つの挙動に複数の技が表現されてたりもするんですけどもねえ。

 それにしても、自分の手首掴んで引っ張り込む意味はないでしょう。

 僭越ながら古流柔術を稽古した者の視点からみれば、この挙動の分解は明々白々である。

1 自分の右手首を相手が右手で掴んできた。
2 そこで自分の左手で相手の手の甲を掴み、自分の右手首に押さえつけ、相手の掌を自分の右手首に固定する。
3 そのまま右手刀を廻すようにして、相手の右手首を「小手捻りの逆手とり」で逆手に極める。
4 さらにそれを引き寄せてながら、前蹴りor膝蹴りを入れる。

 というのが、この挙動の、ごくごく自然な分解ではないでしょうかね?

 つまり、この挙動は本来、接触技法(組技)の表現であるはずなのに、無理くりに「相手の突きを受ける」離隔技法(打撃技)として分解しちゃってることから、結果、自分の右手首を自分の左手で掴んで引き寄せるなどという、非現実的な分解動作の解説になっているように思えてならないのである。


 まあ、空手道の世界では、私は単なる町道場・一般部の有段者なので、講習の際には黙っていましたけども・・・。

 しかし、武道歴28年の武術・武道人という立場から言わせてもらえば、もしこの分解解説があえて正しい技を隠しているということでなければ、逆手をはじめとした柔術系接触技法に対する無理解ゆえに、先人が伝えた形本来の合理的な分解が、ゆがめられているとしか思えないわけです。

 それにしても、仮にも全空連の高段の先生方や、教範を編纂された中央技術委員会の著名な先生方が、この程度の日本武術に普遍的な逆手の用法もご存知ないとは、とうてい思えないのだが・・・。

 隠し技にしているとか?

 それとも、教範や地域の講習は、あくまでも一般向けなので、あえてそこまで教えないで、なんとなく挙動をなぞるような分解を指導しているとか? 

 それよりなにより「小手捻りの逆手とり」なんて、柔術ではイロハの「ロ」ぐらいの技で、隠すほど大層なもんじゃあないんだけどもねえ・・・。

 いや本当に、謎は深まるばかりです。

 (了)

※1
すばやく引き戻される、相手の突きを掴むには?
指先をそろえて曲げ、手形を熊手状にし、相手の袖の肘あたりを指で引っ掛けるようにして掴め!
つまり、腕(身体)を掴むのではなく、袖(衣服)を指先で引っ掛けるのである。
こうすると、相手の引き手が鋭いほど、しっかり袖を掴むことができる!
・・・という、古流の口訣がある。
組手の際にでも、お試しあれ!
ただし、爪は短くしとうこうネ。
長いと、生爪はがすヨ。
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