【新訳】早縄 活法 拳法教範図解~その1/(武術・武道)
- 2009/10/29(Thu) -
■はじめに

 国立国会図書館の近代デジタルライブラリーからダウンロードした、『早縄 活法 柔術練習図解 全 一名警視拳法』を読了した。

 本書は今から111年前の、明治31(1898)年に発行された、警視流柔術形(別名・警視拳法)の解説書である。

 この版では、タイトルが『早縄 活法 柔術練習図解 全 一名警視拳法』となっているが、内容はそれ以前に久富鉄太郎が刊行した『早縄 活法 拳法教範図解』のリメイクである。

 編者の井口松之助は、現在も復刊されて流通している『柔術整理書』や『柔術剣棒図解』等の編者として知られている。

 編者は、自身も武術家として修行を積み、しかも出版人として多くの武術書や図解を、この時期に発行しているだけに、本書も可能な限りの図解と、ときには親切すぎて冗長なほどの、丁寧な解説文でまとめている。

 しかし、なにしろ今から100年以上前の書物であり、21世紀の武術・武道人、ことに若い人たちには、いささか難解な部分も少なくない。

 そこで、私自身の研究資料とするためにも、本書の意訳・摘録=新訳に取り組んでいこうかと思う。

 ただし、あくまでも意訳であり、また冗長な部分や私が不要と思う部分は随時、割愛していくので、原書を読み、それを普段の稽古で活用していくための副読資料だと思っていただければ幸いである。

 なお、訳出作業は不定期になるとは思うので、その点、ご了承いただきたい。

 市村 謹識

■凡例

 本稿は、一言一句正確な訳・解説ではなく、あくまで意訳・摘録による新訳である。

 原文意訳部は太字の地の文、市村の注釈は、「市村いわく」として書き分ける。


          *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

■早縄 活法 拳法教範図解序

 以前、警視庁に勤務していた頃、柔術について、より多くの警察官がそれを常に稽古し、犯罪者に対して職務を遂行する際に備えるべく、当時の警視長官に意見を申し述べた。幸い長官はそれを多とし、私の意見が採用され、以来、各署員が勤務の合間に柔術の稽古をするようになり、その効果は少なくないものがある。

 しかし警察官のなかでも、従来から柔術の稽古をしてきた者の場合、それぞれが稽古してきた自分の流儀を第一として、私が提唱した警察官向けの柔術技法の講習や稽古が円滑に進まないことがあった。

 そこで私は、各署員から30数名を選び、警察官向けの柔術技法を改めて検討・考察。柔術諸流の技の中から16種の形を選び出して取りまとめ、その講習を実施、良好な成果を得ることができた。その後、これらの柔術形の解説文をまとめ、『拳法図解』として出版した。
 
 さてこのたび、井口君や真蔭流柔術師家の今泉先生が、この『拳法図解』を再刊したいということである。

 私が思うに、そもそも本書で解説している16本の形は、あくまでも警察官の職務遂行のために、諸流の技を抜粋、一時的に編成した柔術形の体系であり、武芸として後代に伝えるほどのものではない。

 しかし両人の熱意ある申し出を受けて、恥ずかしながら再刊し、世にその技と体系を改めて伝えるものである。

 私は今泉、井口の両氏と会談し、本書にも目を通し2~3の修正を加えた。読者諸君においては、以上のような本書出版の経緯と意図をご理解いただきたいと願う。

明治31(1898)年5月
久富鉄太郎 識す。


■早縄 活法 拳法教範図解 目録

◎体勢図解
◎体勢図解(別名 真ノ位図 1~3の解説)
◎距離図解
◎拳法図解(帯刀しての柄捌きの形3本) 柄取
◎同 柄留
◎同 柄搦
◎拳法(柔術の形13本) 見合取
◎同 片手胸取
◎同 腕止メ
◎同 襟投
◎同 擦込
◎同 敵ノ先
◎同 帯引
◎行連レ左上頭
◎行連レ右突込
◎行連レ左右腰投
◎行連レ右壁副
◎行連レ後口取
◎陽ノ離
◎早縄捕縄の解説と注意
◎釣縄図解
◎早縄捕縄の掛け方図解各種
◎縄の掛け方の心得図解
◎三寸縄図解
◎活法の注意と説明
◎同 不容巨闢図解
◎同 心兪図解
◎同 誘図解
◎同 臍兪図解
◎同 襟法図解
◎同 心臓図解
◎同 裏法図解

■早縄 活法 拳法教範図解 編者 井口松之助

 はじめに

 本書は明治17(1884)~19(1886)年までの約3年間、警視庁で久富鉄太郎先生と各流の遣い手である警察官諸氏が、柔術16流儀から技を選抜してまとめた警視流柔術の形、別名・警視拳法について、久富先生が以前出版された解説書である『拳法図解』のリメイク版である。

 今回、改めて久富先生の望むままに記述・修正し、全国の警察官や軍人、さらに学校の先生や生徒にいたるまで、この柔術形を広めたいと思っている。

 私(井口)は書店を営業しているとともに、子供の頃から武術を好んで稽古してきた。そこで今回、本書の再刊に当たっては、久富先生をはじめ、真蔭流柔術の今泉八郎先生のほか、各流の先生方の指導を仰いだ。またイラストレーターの安達吟光先生も腕を振るってくださり、文字で説明しにくい所はイラストで分かりやすく解説、拳法の形と早縄の形まで掲載している。

 私はすでに、『柔術剣棒図解』や『武道図解秘訣』、『柔術極意教授図解』を出版、新作には『柔術整理書』があり、大好評をいただいている。また『神刀流独習 剣舞図解教範』も出版している。

 私が出版してきた武術書は、他の編集者や著者のものと違い、実地に活用できることを旨として、学生でも一読すれば図解を見るだけで、先生がいなくても独学できるようになっている。

 ゆえに、ここで解説する拳法については、本書をひもとけば、軍人や警察官から町道場の先生までだれでも覚えることができる。さらに武術を知らない人にとっても、効果的な護身術となるであろう。

 しかもごく短期間で技が習得できるよう、苦心してまとめているので、読者の皆さんにおいては実地の稽古に、ぜひ活かしていただきたい。

 なお、本書を読んで分かりにくいところがあれば、軍人と警察官に限っては、下谷同朋町にある今泉演武館か神田の吉田柳真館で、著者が無料で指導する。

 ちなみに、最近出版した『剣術極意教授図解』では、警視流の剣術形を掲載しており、これも好評を得ている。

 私は無学で文章が上手ではないので、文字の誤りや分かりにくいところが多いかもしれないが、なにしろ武術は実際の稽古を第一とするゆえ、この辺りの力不足はおゆるしいただきたい。

明治31(1898)年4月下旬

源義篇 謹白



  市村いわく

   まずは、本書刊行の経緯を、実際に警視庁で形の抜粋・編成・指導を行っていた久富鉄
  太郎が解説しています。
   「警視流は、あくまでも一時的にまとめたものであり、後世に伝えるほどのものではない」
  と謙遜していますが、一方で警察官への実地講習では大きな成果を挙げたと誇ってもいま
  す。
   武技の習得と共通理解を目的に、諸流の技を抜粋・編成、流儀が違っても、共に学べると
  いう点では、たとえばこの警視流拳法(柔術)を現在の武道にたとえると、諸流が共通の形
  を共有しているという意味で、伝統派空手道における第1~2の指定形のようなもの、ともい
  えるでしょう。

   続いては、目次です。

   体の作りや構え、間合いの解説から始めているのは、促成技術の解説書とはいえ、武術
  稽古への真摯な姿勢が感じられます。また柔術形のほか、捕り縄の解説が続いているのは
  明治という時代を感じさせるものでしょう。活法の解説まで含んでいるのは、「活殺自在」を表
  した往時の柔術の面目躍如です。

   次は、編者である井口松之助のまえがきです。

   武術家であり出版社も経営していた井口は、この時代、数多くの武術書を発行し、現在も
  そのいくつかが復刊され、流通しています。こうした実績とその評価から、井口は本書の編
  集にも、多いに自信を持っていることがうかがえます。

   ある意味、実用書の歴史という点でも、本書は興味深いものといえるでしょう。

   自身も武術家であるだけに、井口は文章や図解の限界も理解しています。だからこそ、軍
  人と警察官の読者には、「無料で指導する」といっているわけです。

   しかし一方で、この16本の形がそもそも、流儀をとわず、武術の習熟度も問わず、短期促成
  的に、最低限の護身術の習得を目的にしているだけに、井口は学校の先生や学生でも、本書
  を精読して実地に稽古をすれば、短期間で習得できることを旨とし、その成果に自信をのぞか
  せています。

  (つづく)
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