【新訳】早縄 活法 拳法教範図解~その3/(武術・武道)
- 2009/12/09(Wed) -
※本稿の凡例
 太字:原文意訳
 細時:意訳者の注


■体勢図解その2

 柔術家にとって、最も大切なのは身構えである。



市村いわく

 ここでいう「身構え」とは、たとえばボクシングにおけるアップライトとか、空手道における組手構えとか、剣術における左片手上段とか、そういった攻防の際における、いわゆる「構え」ではない。

 あくまでも、体動の基盤となる体勢であり、記号としての身体の体勢のありようである。ここを誤解してはならない。

 同様に、たとえば剣術や拳法・空手などにおいても、形の中に示された「構え」というものが、攻防の際の体勢のありようとしての「構え」なのか、それとも技が極まった際の定式を示す「構え」なのか、あるいはその流儀特有の身体動作の記号論的な象徴(体勢としての理想形)なのか? という点を区別して理解しないと、先人たちの教えが一知半解になり、とって付けたような形の解釈に陥ってしまうことに留意されたし。


 その方法は、図に示すように、両手で自分の金的を囲うようにして守り、中腰で両足を横一文字に開き、つま先を外側に向け、腰をすえて口を結び、下腹に力を入れる。

 この身構えは、「真ノ位その2」ともいうべきところである。この身構えによって、腰投げや背負い投げなどを行い、乱捕りには最も自由自在に動き運用できる構えなので、十分工夫・検討すべきものである。


図真の位2
▲真ノ位その2


■体勢図解その3

 この構えは、「真ノ位その2(一文字腰)」から左足を40cmほど後ろへ引いて膝を着き、右足を立てひざにする。腰から上は「真ノ位その2(一文字腰)」と同じ。左足の踵を自分の肛門へ押し当てるように据え、下腹に力を入れる。

 自分が投げられて起き上がるにも、この身構えになるように起きる。これを「真ノ位その3」とも言う。

 敵とにらみ合うとき、掛け声を出すとき、起き上がるときや残心をとるときにも、この図のように身構えるように。なお、形によっては、左右の足が逆になる構えももちろんある。

 発心(先)、中心(作りと掛け)、残心、気合(発力)、勇気(肝力)などに必要な心と身体が充実するには、この構えがたいへん重要である。


図真の位3
▲真ノ位その3


市村いわく

 いわゆる「一文字腰」というのは、柔術に限らず、剣術なども含め、日本の古流武術ではたいへん重要かつ基本的な身構えである。型稽古を通し、こうした身構えに習熟することで術の土台となる下半身を鍛え・安定させ、軸を通し、丹田を練るわけである。

 また両手で金的を囲う(守る)という身構えも、古流ではよく見られるものであり、護身術の基本的なツボとして留意すべきである。

 なお余談だが、私の若い頃の日常生活での得意技のひとつが「釣鐘砕」であった。なんのことはない、相手の「玉」を思い切り握ってやる(厳密には握りながら、引き千切るように捻るのだが)だけの業だが、中途半端な小手返しや小手捻りなどといった逆業より、路地裏では、よほど効果の高いものであった(笑)。実践の業とは、シンプルなものである。


■距離図解

 まずは自分たちが稽古をする場所の広さを十分考慮し、受け、取りともに形を行う際には、まず掛け声と同時に中央に歩み寄り、双方の距離がおよそ1メートルほどまで近づく。ここで受け、取りとも同時に左足を40センチほど左斜めに引き、半身となる。

 形では、ここから受けが攻撃を仕掛ける。受けから仕掛ける形は、「襟投」、「陽ノ離」、「左右行連」、「後捕」などである。

 柔術の形は、いずれも左右を変えてそれぞれ同じ形として稽古することができるものであるが、たいがいの人が右利きであることから、右からの形が多くなる。

 ここで解説する警視流の形は、わずか16本であるため、5回くらい学び、自分たちで10回ほども稽古をし、1ヶ月程度ですべての技を修了できるものである。だからこそ、気合を入れ勇気を込めて稽古をしなければならない。しかし無理に力んだりせずに身体は軽やかに技を掛け、技をかけられた場合もすばやく受身をとるべきである。

 これから形の解説に入るが、図の中に示された点線は動きの変化を表しているので、じっくりと図解と説明文を読んで、その上で稽古をしてほしい。


図距離
▲約1メートルの距離で、右半身で対峙する


市村いわく

 私も若かりし頃、某警備会社で常駐警備についた際には、新任研修で自衛隊上がりの助教に、速習型の護身術と警戒棒の使用法について指導された経験がある。

 我々、武術・武道人と違い、法執行機関の職員や警備業務に就く者というのは、悠長に武技を学んでいる時間などはない。ゆえに警察でも警備業でも、あるいは軍隊でも、護身術や体術などの訓練は、一部の専門要員以外、ごく短期間に最低限の術技が、だれでも容易に習得できるものでなければならないわけだ。

 こうした点で、警視流拳法もあくまで速習に主眼が置かれており、5~10回の講習・稽古を行い、1ヶ月程度で修了と具体的なスケジュールが示されているのは興味深い。

 とはいえ、この時代の警察官といえば、ほぼすべてが士族であろうし、ということはすでに剣術なり柔術なりの十分な素養があることを忘れてはならない。

 しかし本原書を読み込んでいると、筆者である井口松之助としては、すでに素養のある警官や軍人だけではなく、学校の教員や生徒なども含めた幅広い相手を対象とし、できるだけ平易に、稽古しやすい解説を心がけているのが分かる。

 また、術技そのものについても、素朴で理解しやすい基本的な柔術技法が多い。

 素朴ということは、それだけ習得も簡易であり、先の「釣鐘砕」の例のように、即効性を求められる護身術としての実効性や有効性も高いということである。

 以下、次回からは、いよいよ形解説部分の訳にとりかかる。


(つづく)
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