風雪流れ旅 '10冬 その1 熱湯編/(旅)
- 2010/01/17(Sun) -
 まいどおなじみ、鉄道旅取材。

 今回は、甲斐から信濃、越後から越中、越前、そして京都まで、すべて各駅停車でめぐるというものである。

 通常、こうした記事は、主な見どころを押さえたら、あとは新幹線か車などで随時移動して、効率的に取材をするわけだが、この編集部は、「記事で設定しているとおり、完全に各駅停車で踏破してください!」という、なかなか硬派な仕事を要求するのである・・・。


 というわけで、早朝の新宿駅から中央本線を北へ。

 まずは、今年7年ぶりの御柱祭りがある諏訪へ向かう。途中、「駅弁がうまい駅」で売り出している小淵沢駅で、『御柱祭弁当』(1200円)をゲット! 豪華な2段のお重で、桜肉のしぐれ煮や信州氷豆腐、諏訪湖名産ワカサギの佃煮などなど、信州各地の名物料理が満載である。

DSC_3319.jpg
▲豚ひき肉のモチ米包み蒸しも美味!


 大寒波が襲来とか、天気予報でいっていたわりには天気は快晴で、雪も1~2センチ積もっているくらい。「たいしたことねえなあ・・・」と思いながら(後で、泣きをみるのだが)、昼すぎに下諏訪駅で下車。

 諏訪大社下社の秋宮や春宮、旧中仙道のスナップ撮影などを粛々と進める。とはいえ、今回の旅のテーマは「夜桜の旅」なので、メインの写真の多くは、別撮りのもの。このため、私が行う撮影はあっさりとしたものだし、取材も自分で旅して感じたままを・・・、というような全体にライトなものである。

 おかげで撮影や取材はサクサク終わってしまい、しかしスケジュールはあくまで誌面に掲載する旅程通りというシバリから、出発時刻まで、すいぶんと時間が余ってしまった。

 じゃあ、風呂でも入るかね! 

 下諏訪名物の共同浴場でひと風呂浴びてもバチは当るまい。

DSC_3346.jpg
▲源泉も湯量も豊富な下諏訪だけに、通りにある
宿の手水も温泉だ


 下諏訪温泉には、10軒の共同浴場があり、その多くが旅行者でも割安の料金で入浴できるのがうれしい。そこで選んだのが、下諏訪共同浴場でも、もっとも熱いという『旦過の湯』。

 男女別の内湯が各1つという、超シンプルな、正統派の共同浴場である。昭和を感じさせるタイル張りの湯船は2つに仕切られており、「湯口のある側は熱く、もう一方はややぬるい」(地元のご老人A談)とのこと。そこで、まずは温泉入浴のマナーであるかけ湯をしようと、ぬるい側の湯を桶にとり股間にかけると・・・。

 殺す気か!

 筆舌に尽くしがたいほど、猛烈に熱いのである。

 しかし、本格のトラベルライターであるこの私が、かけ湯もせずに温泉に入るのは、マナーの上でも、公衆浴場の衛生上からも、許されるものではない。お風呂に入る前には、かけ湯で必ず、あそこやおしりを洗ってから入るというのは、日本人の作法というものである。

 局部の熱さにもだえ苦しみながら、ひとり洗い場でかけ湯に苦闘している私を見るに見かねたのか、脱衣所にいた地元のご老人Bが、「あ~、よその人には無理だから。からんのシャワーでかけ湯しな」とのこと。

 そっか・・・。


 こうして身を清めたあと、意を決して「ぬるい方」の湯にチャレンジする。

 ゆ~っくり、ゆ~っくり身を沈めると、なんとか肩までつかることができるが、不用意に腕などを動かすと、猛烈な熱さで皮膚がしびれるようである。湯はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉。なめると、ごくほのかにしょっぱいが、クセのない湯だ・・・といっても、まあ、とにかく熱くてそれどろじゃあないんだがね。

 それでも、しばらく我慢してつかっていると、身体が慣れてくるもので、「う~む、さすがに信玄の隠し湯、いい温泉じゃわい」などとつぶやく余裕も出てくるというものだ。

 それでは、湯口から直接、源泉かけ流し、加水・加温なしの湯がそそがれる「熱い方」の湯船へ。

 ・・・!

 やっぱ、無理である。

 膝まで足をつけて10秒、それ以上は私には不可能だ。身体に危険を感じる熱さといっても過言ではない。

 敗北感に打ちひしがれて、洗い場で呆然としていると、受付のおばちゃんが、湯の温度を測りにきた。

「何度くらいあるんですかね?」
「う~ん今日はちょっとぬるいね、47度かな」

 ぬるくねえよ・・・。


 軽い屈辱感にさいなまれながら『旦過の湯』を出るも、列車の出発まではまだ30分もある。雪こそ降っていないが、風花の舞う門前町はたいへん寒く、かといってコーヒー代どころか食費さえも経費では出してもらえない過酷な取材ゆえ、寒さしのぎに喫茶店で時間をつぶすこともままならぬ。

 ならば、もっぺん温泉だ!

 ということで、今度は『旦過の湯』と同じ旧中仙道沿いにある『遊泉ハウス児湯』に入る。
 
 『遊泉ハウス~』などと当世風の屋号ながら、この共同浴場は江戸時代の中ごろから続く源泉のひとつだとか。湯船は銭湯なみの広々とした大浴場で打たせ湯も付き、さらに隣接して半露天の浴槽も完備する。

 浴槽の入口にかけゆ専用の湯壷と手桶があったので、「では、まずかけ湯~♪」っと、湯をかぶると・・・。

 殺す気か!

 熱くてかけられねえ・・・。

 安っぽいコントのごとく、今回も猛烈に熱いかけ湯に気力をくじかれつつも、さっきの経験で知恵がついたので、からんのシャワーでかけ湯をする。「市村の経験値が1P上がった」ってなもんだ。

 人は学習する生き物である。

 「どうせここの湯船も、猛烈に熱いんだろ」と思いきや、大浴場の湯は、意外に適温。最近、お湯がぬるくなった東京の銭湯と同じくらいである。これなら、両手、両足を伸ばしながら、余裕で入れる。しかし、入浴する湯船が適温なのに、かけ湯専用の湯が猛烈に熱いとは、これいかに? ナゾは深まるばかりである・・・というか、合理的でない気がするのは私だけだろうか?

 露天風呂は、まあ露天といってよいかどうか疑問の余地がある、都内の銭湯などによくある「屋根つき屋内露天風呂」であるが、冷たい風が、温泉でほてった身体に心地よい。これで入浴料が220円というのだから(『旦過の湯』も同料金)、風呂好き・温泉好きには、天国である。江戸なんざ、いまどき普通の銭湯が450円だからねえ。

 ただし、熱湯にはくれぐれも注意が必要であるが・・・。


 下諏訪の湯を満喫した後は、再び中央本線そして篠ノ井線を北へ、今日の泊地である上越は高田へ向かう。

 それにしても大雪、大雪というわりに、松本まで北上しても車窓からの風景は、たいした積雪量ではない。聖高原や姨捨あたりまできて、ようやくそれなりの雪景色になる。それでも、「大寒波」とか「雪害」というようなレベルではない。

 「まったく最近の天気予報はあてにならんし、マスコミ報道も大げさなんだよ、ケッ!」っと思いながら、16時41分、予定通り長野駅に到着。すると、駅の改札付近がなにやら騒然としているではないか? 駅員さんに話を聞くと、大雪で信越本線は黒姫までしか運行しておらず、今日は復旧の見込みもないとのこと。

 高田にいけねえ・・・。

 おまけに鉄道のみならず、道路もほとんど全滅で代替輸送も不可能とのことなので、急遽、編集部に連絡をとり今後の指示を仰ぐ。

「明日も信越本線や北陸本線が順調に運行するか分からないので、今晩は長野か松本で泊まってください。明日の取材は昼間の富山と金沢を飛ばし、中央線と東海道線で直接、京都に向かってくれますか。そうすれば、京都での夜の撮影には間に合うはずですから」

 とのこと。

 普通ならここで、長野~京都間の移動はイレギュラーな対応、つまり今回の誌面に掲載するモデルコースとは関係ないのだから、当然、新幹線とか特急とか乗ってもいいんだよね・・・?、と考えるのが人情であろう。

 がしかし、今回、私が編集部から渡されたのは、残り3日分の「青春18きっぷ」である。そしてこの切符は、JR全線5日間乗り放題なのだが、特急料金を別途払っても新幹線や特急には乗車できないルールがあるのだ。

 長野駅から京都駅まで、いったい鈍行で何時間かかるんだよ・・・。

 さらにそれよりも重大な問題は、この旅程変更により、今晩、高田で予定していた『謙信公のかちどき飯』の撮影、さらに明日、富山で予定していた昼間の『白えびの天丼』の取材・撮影が、キャンセルになったということだ。

 そして、今晩と明日昼までの食事関係の撮影と取材がキャンセルになったということは、記事を書くために必要な撮影した料理の試食ができない。つまり、「今晩の夕飯代と明日の朝・昼飯代は、自腹で払ってネ」ということなのである。

 う~む、たまには食費が出る取材がしてえもんだ。

 「旬の富山の白エビと、謙信ゆかりの郷土料理を喰い逃したか。ここいらに安い居酒屋、あるかなあ・・・」っとぼやきながら、とりあえず今晩泊まる宿を確保すべく、私は小雪がちらつく夜の長野市街に歩き出した。

(つづく)
スポンサーサイト
この記事のURL | | ▲ top
| メイン |