初心者の拍子/(武術・武道)
- 2010/08/08(Sun) -
 翠月庵の手裏剣術は、刀法併用手裏剣術をもって、教習の仕上げと位置づけている。

 このため会員のみなさんには、できるだけ剣術や居合・抜刀術などを併習することをすすめている。


 しかし多忙な現代、最果ての地・行田(笑)まで手裏剣術の稽古に通うだけでもたいへんななか、さらに他の稽古場や道場にも通うというのは、なかなか困難なことでもある。

 そこで、剣術や剣道、居合・抜刀術の素養がない人に対しては、ごくごく基本的な打刀の操法について、当庵が初心者向けに独自に編纂した「基礎剣術」、「初級剣術」、「基礎抜刀術」などで学んでもらうことにしている。


 さて、そこで過日、稽古中に組太刀を稽古していたのだが、我ながら「まだまだ青いのう・・・」と己を知った出来事があった。

 翠月庵の初級剣術の1本目は「摺上」で、打太刀が右晴眼から歩足で二歩踏み込んで真っ向正面を斬るのを、仕太刀は継足で一歩下がって表鎬で摺り上げて右上段にとり、継足で一歩踏み込んで真っ向正面斬り、という、シンプルなものである。

 形の眼目は、

1.歩足と継足という異なる運足による拍子の違いを知る
2.正しい真っ向正面斬りの間合を知る
3.摺り上げという、攻防一体の技を学ぶ
4.有声の気合で胆を練る

 などである。

 さて、これを会員のAさんとBさんに指導していた。

 Aさんは剣術については、某古流に数回通ったことがあるだけということで、やっとうに関しては事実上、まったくの素人さんである。また当庵で組太刀の指導を受けるのも、今回が初めてであった。

 そこでとりあえず、すでに何度か当庵の初級剣術形を稽古しているBさんと私でお手本を示す。

 その後、形の順序を覚えてもらうために、まずAさんが打太刀、私が仕太刀で、上記「摺上」の形を解説かたがたはじめたわけだが・・・。

 お恥ずかしいことに、仕太刀の私が、Aさんにことごとく拍子を外されてしまい、てんで形にならないのである。

 摺り上げようとしているのに(不本意ながら)抜いてしまうやら、摺り上げているのになぜかAさんの木太刀が私のこめかみの辺りで留太刀になっていたり????

 とにかく拍子がてんで合わず、形にならないでのある。いやこれには、本当にまいった・・・。


 そこでふと思い、「とりあえず、なにも考えずに、私に向かって斬ってきてくれる?」と指示。

 基本の通り、右晴眼から二歩踏み出して切り込むAさん。

 私は思うところがあり、継ぎ足で下がりながら摺り上るふりをしつつ、実際に基立ちの位置から動かないでみた。

 すると、Aさんの切っ先は、そもそも私の立っている位置(継ぎ足で下がる以前の基の位置)に、ぜんぜん剣先が届いていないのである。

 さらに、なぜか留太刀のごとく、剣先が頭頂部で止まっている????

 「Aさん、基立ちの私の位置に、切先三寸をきちんと届かせてね。それから寸止めじゃなくて、完全に下段まで切り下ろしてね。剣先を留めちゃダメですよ。受け損なうことがあれば、こっちが悪いんだから」

 と指導して、もう1回。

 しかし、私には機するところがあったので、今回も摺り上ずに、ぎりぎりで見切ってみた・・・。

 すると、やはり今回も、剣先は基立ちの位置に届いておらず、剣先は切り下げられずにひたいの位置あたりで止まっているのである。

 む~ん。

 そりゃあ、形になりませんがな。

 打太刀の剣先が仕太刀の基立ち位置に届かず、おまけに斬り下げずに顔面の位置で寸止めになっているだから、そりゃあ摺上もへちまもないし、こちらに抜くつもりがないのに抜いちまうわけだ。

 とりあえず、仕太刀の立場で拍子が崩される原因が分かったので、Aさんには「切先三寸を、きちんと基立ちの位置まで届かせる」「しっかりと下まで、剣先切り下げる」ことを指導。

 それでも、Aさんとしては無意識なのだろうが、どうしても留太刀風に切っ先を完全に斬り下ろせないで、中段あたりで止めてしまう。また、切先三寸を届かせる間合いもなかなか取れず苦心していた。

 こうなると仕太刀をとる側としては、摺り上げというより、打ち払いの稽古である。

 間合の問題については、逆にAさんに仕太刀を取らせることで、「きちんと切先三寸を届かせること」を理解してもらえたようだが、斬り下ろさずに寸止めしてしまうクセは、なかなか改善しなかった。

 しかし初心者にとって、「単純に下まで斬り下ろす」ということが、これほど難しいとは思わなかった。 


 それにしても我ながら、拍子を崩されてグダグダになってなってしまったというのは情けない。

 すぐにその場で、間合の遠さと寸止めのクセを見極めることができなかったのは、私の未熟さである。

 思えば旧師からよく、「初心者との相対稽古には、十分に注意すること。彼らはなにも知らないゆえに、われわれ経験者からするとまったく予測も付かない奇妙な動きやタイミングで掛かってくることがあるので、思わぬ一打を受けることになる。ま、それも拍子と間合、位取りの稽古だがな・・・」と教えられたものだった。

 同様に、とある高名な武術家も次のように述べている。

 「注意する必要があるのは、初心者と対峙した時である。初心者のリズムは見当はずれであり、本人が意識しているわけではないが、結果として達人やベテランの眼を惑わせる。ゆえに相手が初心者と判断されたなら、複雑な技ではなく、単純で迅速な攻撃をした方が良い」

 含蓄のある言葉である。


 いずれにしても指導をする側として、改めて己の未熟さを実感した次第。

 まさに教えることは、学ぶ事ですな。

(了)
スポンサーサイト
この記事のURL | 武術・武道 | ▲ top
| メイン |