『野川』は現実世界に舞台を代えた『天然理科少年』か?/(書評)
- 2010/11/15(Mon) -
長野まゆみの最新作『野川』(河出書房新社)を読んだ。

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 BL系に走る前の、叙情的な長野作品を愛する者としては、なかなかにリリカルな、長野まゆみらしい佳作であった。

 実際に、数年前にガイドブックの取材で、野川を歩いたことがあるので、一段と物語の世界に入ることができたように思う。

 ただし、出版社の宣伝では「長野まゆみの最高傑作」とあるが、これははたしていかがなものか?

 長野作品の最高峰は、『天然理科少年』だと信じている私としては、これはちょっと納得はできない(笑)。

 ただし『野川』は、ファンタジーを極力排除し、舞台と設定をできるだけ現実世界に近づけた形での、『天然理科少年』なのかなあという気もした。

 ことに父と主人公の少年とのやりとりは、『天然~』のセルフカバーといった趣すらあり、少年時代を記憶しながら現代を生きる父親世代である自分としては、かなりぐっときた。


 また長野作品のお約束で、物語は起承転結の「起承」で、ぷつりと終わる。

 これがまた、独特の余韻を残す。

 ユニークな語り口で、「目に見えない風景」の大切さを語る教師の人物造型は、これぞ長野まゆみの面目躍如といったところか。


 『天然理科少年』や『夏至祭』、『夏帽子』や『天体議会』などといった名作に比べると、現実社会を舞台にリアリズムに徹したという点でいささか小ぢんまりとした物語世界となったが、ひさびさに心地よい、長野ワールドに遊んだ気分になった。

(おしまい)
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