体術出稽古備忘録/(武術・武道)
- 2012/06/17(Sun) -
 梅雨である。

 ゆえに、雨が降る。雨が降ると、野天道場の当庵は、稽古ができない。まあ、雨の中でもできないこともないが、手裏剣や刀は錆びるし、踏み込みで地面を掘ってしまうので、よろしくないのである。

 というわけで、昨日の稽古は急遽、休みとなった。

 そんな折、武友である不動庵の碧洲齋さんにお誘いをいただき、出稽古にお邪魔したのは、掲示板に書いたとおり。


 いまでこそ、手裏剣術屋の看板を揚げているものの、もともと私の武歴の始まりは柔術。

 といっても、ブラジリアンなどの舶来のではなく、日本古来の柔術である、念のため・・・。

 その後、伝統派の空手道も10年ほど嗜んだが、やはり自分の体術の基本は、柔術にあるように思う。ゆえに、今回の出稽古はたいへん興味深く、楽しく、稽古させていただくことができた。

 以下は備忘録。


 拇指拳を使った当身は、かつて稽古した流儀が、これを多用するところだったのだが、これまで学んだことの無い使い方を指導していただき、「なるほど、この方向から、この角度で、しかもこの動きの中で、ここに当てるのか!」っと、目からうろこが5~6枚は落ちた。

 それ以外にも、独特の手刀の当て、運足による崩しなど、やはり柔術系の体術の稽古は、打・投・極がバランスよく学べ、楽しい。

 空手道でも、形を分解すれば、投げや極めなどの技は無数にあるのだが、それを指導する(できる)指導者が少ないのは、残念なことである。

 柔術の稽古をある程度してきたものからすれば、「この動作はどう考えても極め技」というのが、トンチンカンな打撃の受け技などとして解説されていることも、少なくないのである。

 思うにこれは、一連の技の流れ全体を「型稽古」という相対攻防として継承している日本柔術に比べ、空手道の「形稽古」は単独動作であり、しかもその攻防動作の解説(分解)が、明確に継承されてこなかったことに原因があるのだろう。


 また、今回の出稽古では、空手道で言うところの、「十字受け」を使った技をいくつかご指導いただいた。

 これも、十字で受けながら体捌きと運足で崩し、当てて、投げるというものである。

 空手道の世界では、「十字受け」などは、もはや形の挙動でしか出てこない完全に形骸化した技なのだが、生きた技として指導されていた。

 ここで重要なのは、「なぜ、そう受けるのか?」という、演繹に基づいた読解力である。

 いまさら言うまでもないが、素手によるスパーリング的世界観の攻防では、十字受けのような形のディフェンスは、ほとんど用をなさない。

 コンビネーションを基本にした打撃の攻防では、十字受けが想定している、突きっ放しのような形の、一調子の単発の突きなどというのはありえないからである。

 だから、十字受けなどの技は使えない・・・、というのは早計である。

 短慮である。

 そもそも武芸というのは、素手だけの攻防を意図していない。

 たとえば、殺敵を意図した短刀などによる刃物の突きでは、一調子の単撃が基本となる。

 なにしろ胴突きであれば、相手の背中へ切っ先が貫き抜けるほど、しっかりと刃物を突きこまなくてならない。あるいは顔面突きでも、顔面の中央から脳髄に剣先が到達するほど、しっかりと突き通さねばならない。

 そして、こうした突きの動作は、おのずから一調子の単撃にならざるを得ないのである。

 これは斬り下ろしでも同じ。

 真っ向正面でも、袈裟でも、切っ先が地面に向くまで、しっかりと切り下ろさねば、頭蓋骨を斬り割り、あるいは確実に頚動脈を切り裂くような斬撃にならないからである※1。

 そこで十字受けのような、その後の業の展開につながる受け技が活きてくるのだ。

 あるいは、日本人は基本的に、暴力を振るう際、いきなり殴りかかることが少ない。多くの場合、相手の胸倉なり、肩なり袖なり、髪の毛なりを、利き腕でつかもうとする※2。

 その際の腕の動きは、基本的にコンビネーションではなく、一調子の単純動作となる。いきなり腕をこちらに伸ばしてくるわけだ。

 左でフェイントし、右のボディフックで振って、左のショートアッパーから、右手で胸倉をつかむ・・・、などという人はいないのである。

 そこで、十字受けのような、受け技が活きてくるのだ・・・。

 
 というように、技というのは、それがどのような状況(場)で使われるかによって、規定されるものである。

 ここのところを理解しておかないと、「十字受けだと、コンビネーションブローに対応できませんよね・・・」、などといったトンチンカンな疑問が生まれてしまうし、あるいは「だから、そういう技は必要ない」などという、先人の知恵を冒涜するようなおろかな指導法に陥ってしまうのである。

 古人から受け継がれた業の伝統は、実に奥深い。

 (了)

※1
武技に熟練した者であれば、「浅く勝つ」、あるいはしっかりと斬り込みながら連続技につなげることができるのは、言うまでもない。

※2
ところが最近は、日本人の民族的な身体文化が変わってきたこともあってか、いきなり殴りかかるというケースも少なくないように思う。
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