武用の条件/(手裏剣術)
- 2012/10/14(Sun) -
 「折れず、曲がらず、よく斬れる」というのは、名刀の条件と言われる。

 しかし実は、曲がらない刀は折れやすく、折れにくい刀は曲がりやすいというのが現実であることも、武芸を嗜む者は、しっかりと認識しておかねばならない。

 同じことは、手裏剣にも言える。

 ある意味で、同じ金属製の武具でも、現代の稽古では刀以上に、日々酷使されるのが手裏剣だ。

 打剣の度に様々な硬さの的に突き刺さる。

 業前が未熟な場合、失中すれば剣は地面に落ち、自然石やコンクリートにぶつかる。あるいは的の台座であるコンクリートや、金属枠に激しく当たることもある。

 ましてや、現実には今はありないが、制敵において手裏剣を用いるとなれば、衣類から人体各部の様々な硬度の部位に向けて手裏剣は打たれ、時には相手の武具によって、はじかれ、打ち落とされることもあるのだ。

 だからこそ武具としての手裏剣には、

 「折れず、曲がらず、よく刺さる」

 品質が求められるのだ。

 そして、「折れない」と「曲がらない」が現実的には両立しにくいのであれば、

 武具としてより重要なのは、「折れないこと」

 であるのは、言うまでもない。


 さて、日々の稽古で手裏剣を損耗する最も典型的なパターンは、先に的中した剣の剣尾や側面に、次に打った手裏剣が当たってしまうことだ。

 すでに刺さった剣の剣尾に、「意図的に狙って次の剣を刺す」のは至難の業である。

 しかし、すでに刺さっている手裏剣の剣尾や側面などに、「狙わず偶然に次の手裏剣が当たる(刺さる)」というのは、手裏剣術を日常的に稽古していると、実は頻繁に起こることなのである。


 ところで当庵の稽古に使う手裏剣は、長剣も翠月剣も、全て無冥流・鈴木崩残氏による手作りの一点物であり、当然ながら全ての剣に、焼入れや焼きもどしなどがしっかりと施されている。

 このため、上記のような剣と剣とがぶつかるケース、あるいは金属や自然石、コンクリートなどに剣が刺さる・当たることによって、剣先が折れたということは、かつて一度もない。

 絶無である。

 それではこうした場合に剣先はどうなるかというと、折れずに曲がるのだ。

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▲びんびんに立てた切っ先の先端部分が、ごくわずかに曲がっているのがお分かりにるだろうか? 剣先の折れない優秀な手裏剣は、硬いものに当たるとこのように曲がる


 一方で、当庵の創立当時、会員のA氏が自作した棒手裏剣を使っていた際、その剣のうちの1本が、先端1cmほどのところからぽっきりと折れたことがある。

 しかも折れたのは打剣の際ではなく、手元から地面に剣を落とした時で、おまけに地面は、固いコンクリートなどではなく、土を固めた柔らかい土間だったのだ・・・。

 ことほどさように、適切な焼入れと焼き戻しがされていない剣は、折れやすいのである。

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▲先端1cmの部分で剣先が折れた手裏剣(下)。手元から土間に落としただけでも、もろい金属は折れる


 なお、A氏の名誉のために補足しておくと、「この剣は、焼きいれと焼きもどしが不適切でしたね・・・」ということで、後日、彼は同じ形の剣を複数、作り直してきてくれた。

 それらの剣は、その後の稽古で蛮用しても折れることはなく、今も私の愛用の手裏剣となっている。


 手裏剣術を武術として捉えて稽古する以上、手裏剣は己の命を託す「武具」である。簡単に折れてしまうようでは、武人の使用には耐えられない。

 逆説的に言えば、

 武用に耐えうる信頼のおける手裏剣は、手裏剣術者の命

 なのだ。

 やっとうと同様に手裏剣術も、なまくらな武具には命をかけられないのだと心しておかねばならない。

(了)
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