私的・剣客商売/(身辺雑記)
- 2013/02/19(Tue) -
 作家・池波正太郎の国民的時代小説『鬼平犯科帳』の中でも、「寒月六間堀」というエピソードは、好きな一編だ。

 先日、時代劇専門チャンネルで、吉右衛門版の鬼平を見ていたところ、この話の回であった。うれしいことに劇中で、敵討ちを目指す老武士を演じていたのが、いまは亡き人間国宝・二代目中村又五郎氏であった。


 又五郎氏といえば、鬼平と並ぶ池波作品の双璧である『剣客商売』の主人公、秋山小兵衛先生のモデルになった人物でもある。

 池波作品の中でも、鬼平以上に『剣客商売』を愛読し、1巻から16巻まで、すでに10回以上通読している私としては、作中の秋山小兵衛はもはや創作上の人物というよりも、実在した剣客同様の存在であり、真剣に私淑している。ゆえにあえて、秋山小兵衛“先生”と表記する次第(笑)。

 テレビドラマの『剣客商売』では、これまで山形勲、中村又五郎、藤田まこと、そして最近作では北大路欣也が、秋山先生を演じているが、やはり白眉は又五郎版であろう。なにしろ当人が、原作のモデルなのである。

 又五郎版のドラマ『剣客商売』は、加藤剛演じる息子・大治郎が主人公なので、又五郎演じる小兵衛先生の活躍は多くはないが、40歳年下の妻・おはるとの春風駘蕩としたやり取り、そしてクライマックスでの歌舞伎役者らしい、すっくと背筋が伸び、腰の据わった太刀さばきは、まさにリアル秋山先生である。なお、歴代の大治郎役でもっとも小説のイメージを体現しているのは、藤田まこと版の山口馬木也だと思う。ドラマ最新版で、大治郎役がかわってしまったのは、とても残念だ・・・。

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▲中村又五郎演じる、秋山小兵衛先生。ちびだが、めっぽう強いでのある! 『剣客商売読本』(池波所太郎ほか/新潮文庫)より


 鬼平や梅安など他の池波作品も大好きな私だが、『剣客商売』を一番に押すのは、その物語の爽やかさにある。

 剣だけでなく人生の達人である父・小兵衛と、まっすぐな若さで剣の道を歩む息・大治郎。2人のありようは対極的だが、しかしの根底には剣客としての「生死への覚悟」があり、それが物語に清冽な潔さを醸しだしているのだ。

 秋山親子には遠く及ばねども、平成の世に稽古場の看板を掲げ「剣客商売」に携わる者のひとりとして、これからも秋山小兵衛先生=池波正太郎師の言葉を味読していきたいものだ。

 
 「人の生涯……いや、剣客の生涯とても、剣によっての黒白のみによって定まるものではない。ひろい世の中は赤の色や黄の色や、さまざまな、数え切れぬ色合いによって、成り立っているのじゃ」(秋山小兵衛)

(了)
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