絶技! 山嵐?/(武術・武道)
- 2013/03/14(Thu) -
 「鳥居大殺(トリイオオゴロシ)」という技がある。

 旧師に学んだ古流柔術の技の中で、私が得意とした技のひとつである・・・。


 なんとも物騒で剣呑な名前の技だが、実はもったいをつけるほどのものではなく、起倒流や浅山一伝流など柔術諸流によくみられる、入り身して相手の胴体を片手で抱え、もう一方の手を相手のひざ裏にかけて、自分の前腰を支点に後ろへ投げ捨てるという技である。

 空手道における卍受けも、このスタイルの投げ技として分解指導する師範もいらっしゃる。最近は若い選手の試合組手でも普通に使われるもので、見事に決まると派手に相手が吹っ飛ぶので、会場がわく技のひとつだ。

 古流柔術の投げ技が、現代武道たる空手道の、しかも自由組手で実際に効果的に使われているというのは、なんとも痛快だ。使っている若い世代の空手人は、それが伝統的日本柔術の普遍的な投げ技のひとつであるとは、思ってもみないのであろうが。


 さて世代と言えば、日本の40~50代の男性は、ある意味で『空手バカ一代』世代である。ちなみに私は、影丸譲也版の年代だが、50代の人々はつのだじろう版だと思う(笑)。

 一方で、それよりさらに上の世代にとっての武道系エンタメといえば、『姿三四郎』なのではなかろうか?

 私は中学生の時に、本宮ひろ志の漫画『姿三四郎』を読み、ついで原作小説を読んだ。若き柔道家・姿三四郎が、悪役の古流柔術家や凶悪な唐手家、すぱあら(ボクシング)と戦うストーリーは、ある種、時代を超えた定番の若者向け格闘エンタテイメントである。

 そしてこの物語には、今も昔も格闘エンタメに必須である主人公の必殺技も、もちろんある。

 それが『山嵐』だ!

 原作小説や漫画を読むと、とにかくものすごい必殺の投げ技のようであるが、実際のところどんな技か、具体的な描写が少なくてよくわからない・・・。

 三四郎のモデルとなった柔道家・西郷四郎が、会津藩家老であった西郷頼母の養子だったことから、『山嵐は大東流の合気を使った技だ!』などという珍説もあって、昭和の武道少年の夢をかきたててくれたものである。

 ところが後年、講道館伝の山嵐の実技内容を知り、特段ものすごい技というほどでもなく、変形の背負い投げと跳腰の合わせ技であると知ったったときには、いささかの寂さを感じたものだ。


 さて過日、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで、明治から大正期の古い武術書籍を閲覧していると、面白い記事を見つけた。以下がそれである。

ヤマアラシ1

ヤマアラシ2


 これは、今から101年前の大正元(1912)年に発行された『乱捕活法柔術教科書』(井口義為 著)という書籍で解説されている、山嵐の技の詳細だ。

 ちなみに、『姿三四郎』の原作小説が発表されたのが昭和17(1942)年なので、それよりも30年も昔の資料ということになる。

 ここには、

 「山嵐と云うは講道館にて附けたる名なり。揚心流、真揚流、関口流にては山落と云う」

 とある。

 つまり、姿三四郎の必殺技である山嵐は、揚心流や真揚流、関口流などといった、江戸時代から続く日本柔術を代表する諸流にも存在した、ある種、よくある投げ技であったということである。


 名前やイメージが先行している一方で、その技の実態を知り使える人も少ないために、「必殺技」という過剰な印象だけが流布されている・・・。

 ひるがえってみると、こうした例は柔術だけではなく、剣術や居合・抜刀術、いや現在の武術・武道全般に見られる、隠れた弊害といえるだろう。

 安易な達人幻想や必殺技妄想には要注意。

 そんな暇があったら、汗をかいて地道な稽古を続けることだ。

 (了)


■補遺

 余談だが、柔術・柔道の技の中でも、いわゆる「大外落」は、非常に地味ながら、確実・簡便で、しっかりとした作りの上で掛ければ、体格に関係なくだれでも遣える、武芸としても非常に効果的な技だと思う。

 富木謙治師範は、その著書『講道館護身術』の中で、大外落を極め技とした『斜打』という型を解説し、

 「この技はすこぶる実戦的で危険を伴う技であるから、練習者はよく注意してこれに習熟しなければならない」

 と強調している。

 この型では、相手の打ち込みを捌いて、顎突きの当身、咽喉輪攻め、大外落しで投げ倒して極めるので、相手は後頭部からもろに地面にたたきつけられることになる。

 空手道などに比べると、一見安全そうに見える柔道だが、実はこの技のように、使い方によってはかなり危険な業が少なくない。

 投げ技の威力の大部分は「地面にある」ということを、武術・武道人はよくよく肝に銘じておくべきであろう。
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