日本の治安は悪化している?/(時評)
- 2013/10/10(Thu) -
 ここ数日、若い女性がストーカーに殺害された事件が大きく報道されている。

 その事件だけでなく、ここしばらくの間だけでも、バラバラ殺人や虐待死などのニュースが多く、「なんだか殺伐とした世の中になって、治安も悪いなあ・・・」と感じる。

 さてそこで、ひねくれ者の貧乏記者としては、

 「本当に、日本の治安は悪くなっているのだろうか?」

 と考えて、ちょっと調べてみた。



 厚生労働省発表の人口動態統計によれば、2012年に他殺で死んだ人は合計で383人。1年間、毎日1人以上の人が、日本のどこかで他人に殺されていることになる。やはり、ぶっそうだ・・・・。

 ところが、この年間の他殺者数383人というのは、戦後最小の数なのである。

 戦後、最もたくさんの人が、他人に殺された年は、前の東京都知事が小説『太陽の季節』で直木賞をとった、1955(昭和30)年。この年の他殺による死者数は2,119人で、2012年の約6倍(!)となっている。

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▲図版出典:社会実情データ図録(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/)


 ちなみに、多くの人に「昭和の昔はよかった。素朴で人に優しい時代だった・・・」と郷愁を感じさせてヒットした、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の舞台設定は、1958(昭和33)年。この年の他殺による死亡者数は、年間で1,968人となっている。

 つまり、われわれの郷愁を誘う「三丁目の夕日」の時代は、現在の5倍もの人が殺人事件などで殺されていた、治安最悪の時代だったのである。


 他殺者数(殺人・傷害致死など)だけでなく、強盗や強姦などの凶悪犯罪、あるいは少年の引き起こす凶悪犯罪などについても、戦後から現在にかけて全体的に減少傾向にあり、昭和時代に比べると、

 現在の日本の治安は、きわめて良好

 なのが現実だ。


 一方で、内閣府が2006(平成18)年に行った「治安に関する世論調査」では、次のような調査結果が示されている。


 ここ10年間で日本の治安はよくなったと思うか,それとも悪くなったと思うか?


 「よくなったと思う」11.3%
 「悪くなったと思う」84.3%


 つまり、全体の8割以上の人が、実際には治安がよくなっているにもかかわらず、「治安が悪くなった」と感じているのだ。

 こうした、主観的・感覚的な治安情勢を、「体感治安」という。それにしても、実際の「治安」と「体感治安」がこれほどずれているのは、いったいなぜなのだろうか?

 簡潔にいえば、社会の情報化によって、事件がセンセーショナルに、そして繰り返し報道されることで、われわれは昭和時代の人よりも、はるかに凶悪事件の「ニュース」を数多く読み、あるいは聞かせられているからであろう。

 昭和30年代の日本であれば、たとえば秋田県北秋田市阿仁中村(いわゆるマタギの里)で起こった、痴情のもつれによる刺殺事件のニュースを、鹿児島県西之表市西之表(鉄砲伝来で有名な種子島)の人が目や耳にすることは、ごくわずかであっただろう。

 しかし情報化された現代では、どんな地方の小さな事件でも、マスコミがそこに「ニュースする価値」を感じれば、各社がこぞって大量にニュースを作り、それをネットやテレビ、ラジオ、新聞、週刊誌などなどで流し続けるのである。

 平成のわれわれは、昭和時代に生きた人々に比べ、好むと好まざるとにかかわらず、はるかに膨大な量の「ニュース」=「情報」にさらされている。

 ゆえに、実際の殺人や凶悪犯罪は、昭和時代に比べて激減しているにもかかわらず、「体感としての治安の悪化」を極めて身近に感じさせられているのだろう。



 肝心なのは、事実を客観的に捉え、事象の本質を見抜くことだ。

 当世風に言えば、それは「メディア・リテラシー」であり、武芸の世界の言葉で言えば「観の目」を鍛えるということになろう。

 (了)
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