私的名著~ドイツ・アマチュア・ボクシング連盟指導部著『最新ボクシング教室』/(武術・武道)
- 2014/01/27(Mon) -
 私が空手の稽古をメインにしていたのは、29歳から39歳までの、およそ10年間であった。

 この間、特に組手においてたいへん参考になったのが、本書『最新ボクシング教室』(ドイツ・アマチュア・ボクシング連盟指導部著/福岡孝行・渡辺政史共訳/ベースボール・マガジン社/1961年)である。

140127_213844.jpg
▲すでに半世紀以上も前に書かれた、
アマチュアボクシングの教本


 空手道に関する書籍・教本のたぐいは、その多くが形や基本技の解説書であり、実用的な組手(スパーリング)技術の解説書は今も昔もとても少ない。

 また当時、私の通っていた道場は、組手については“地稽古で叩かれて覚える”的な指導が中心であり、(それはそれで実践的でみっちりと鍛えられたわけだが)、実際の稽古以外の時間に、組手の効果的なあり方や稽古の仕方を考えるための教科書のようなものが、あったらいいなと思っていた。

 そんな時、愛読していたのが、この『最新ボクシング教室』なのである。

 本書は、当時も今も、とても珍しい、アマチュア・ボクシングの、それも学校教育におけるボクシングクラブのために書かれた教本である。このため本書の解説は、実にシンプルかつ簡潔であり、ある意味で素っ気ないほどだ。イラストも、いかにも飾り気がないが、しかし非常に分かりやすい。

 なかでも防除としてのボディ・ワークは、本書の解説が非常に参考になった。例えば私は組手の際に、垂直ダッキングや屈んでのウィービングを多用して大きな効果をあげていたのだが、それらはいずれも本書で学んだものだ。

 また当時、私の試合組手での得意技は、右の背刀打ちだった。流派の全国大会では、この技を使って有級時代に準優勝2回、有段者になった後も、三回戦で四段のオランダ支部長に勝利した時の決め技が、この背刀打ちであった。

140127_213928.jpg
▲肘を下げたショートフックと、肘を上げたロングフックの解説


 実はこの右上段背刀打ちは、本書で解説されていた「肘を上げて打つ頭へのフック」を参考に、私なりに工夫した技なのである。

 私は体格が小さくリーチが短い。また反射神経や動体視力でも、当然ながら若い10代や20代の選手に比べて劣っているため、組手試合で最も多用される刻み突き(ボクシングでいうところの左ジャブ)の打ち合いでは、どうしても突き負けてしまう。

 そこで、ロングフック気味の背刀打ちを使うことで、相手の拍子をはずしながら意外な軌道で上段に打ち込むことができ、これによって試合組手や地稽古で何度も勝つことができた。

 試合では、先をとって飛び込みながらの上段背刀打ちは、相手の視界から消えることもあって、おもしろいように決まったし、相手の刻み突きを左手で捌きながらの右上段背刀打ちから入り身しての投げも、決まると実に痛快な技であった。

 私の背刀打ちが、実は半世紀も前のドイツで書かれたアマチュア・ボクシングの教本を参考にしたものだとは、たぶん誰も分からなかったであろう。

 こうした「時空を越えた啓発力」こそが、書物というものの魅力、いや“魔力”なのではないだろうか。


「この教科書の内容は広範であるとともに深みのあるものであって、体操代わりにボクシングを行う者から、鍛えぬいたボクサーにいたるまで、すべての者が自分を鍛えあげ、さらに鍛え続けるために必要なすべてのことを見いだしうるのである。この教科書がすべての人々に述べるところは、ただ一つ技術と熟練である」

 1959年4月30日,シュトゥットガルト
 ドイツ・アマチュア・ボクシング連盟会長
 オイゲン・ベーム

 (了)
スポンサーサイト
この記事のURL | 武術・武道 | ▲ top
| メイン |