手刀二態(その1)/(武術・武道)
- 2014/02/04(Tue) -
 体術における手刀について少し思うところを書こうと思ったが・・・、これから江戸で取材のため、帰宅後加筆します。


140204_空手
▲空手道における手刀。いわゆる、ひとつのカラテチョップ・・・


140204_柔術
▲柔術系の手刀のひとつ。遣いやすいが、突き指もしやすい


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 江戸は雪であった・・・・。

 さて、手刀である。

 手刀というのは、柔術でも空手道でも、あるいは拳法などでもたいへん普遍的な手形である。しかし一方で、単独形や相対形(約束組手)ではよく使われるが、試合や自由組手、乱捕りなどではほとんど使われない。皆無であるといっても過言ではないだろう。

 たとえば、近年の伝統派空手道の公式な大試合で、手刀を使って勝ったのは、国分利人さんぐらいではなかろうか。もっともこれは、手刀ではなく背刀打ちであったけれど。

 軍学者の兵頭二十八師風に言えば、試合や自由組手で手刀が使われないのは、試合や組手に必須の「ルール」や「条件」、グローブや防具の着用などの「(規定された)状況」という面で、手刀は突き(正拳突きやストレート)に比べて、「安全・安価・有利」でないからである。

 一方で、いわゆる「護身術」的状況においては、手刀の実用価値というものは、いまだに消失してないといえよう。なぜなら「護身を必要とする状況」というのは、日常生活の中で突如として発生するものであり、なおかつそこに「ルール」や「条件」、「(規定された)状況」というものが存在しないからである。

 たとえば突然後ろから襟首をつかまれて引きずり倒されそうになるとか、一般的な直突き(ストレート)が打てないほどの非常に接近した間合から突然危害を加えられそうになるとか、すでに着衣や髪の毛を掴まれている状態から攻防しなければならないなど、その「状況」は類型化できないほど多様である。

 こうした「状況下」では、拳による突きよりも手刀を使った方が、より「安全・安価・有利」である場合も少なくないのだ。

 では、手刀の利点とはなんだろう?

 まず第一に、手刀による打突は拳による打撃に比べて、遣う側が怪我をしにくい点が挙げられる。

 経験者なら分かることだが、拳で顔面を叩くと、相手の歯で拳を切ってしまったり、額などの硬い骨で拳を痛めてしまううことが少なくないのである。実際私も空手の自由組手の際、拳の握り方と当て方が悪く、右の小指を骨折したことがある。

 この点、手刀というのは、厚い筋肉で覆われて、しかも痛みに鈍感な掌の側面部分を当てるので、怪我が少ないのである。つまり巻藁突きや拳立て、サンドバックや砂袋打ちなどの鍛錬をしなくても、手刀という手形はだれでもすぐに「武器化」することができ、しかも受傷事故が少ない。これが、手刀の最大の利点であろう。

 手刀の第二の利点は、変則的な状況でも遣いやすいことだ。

 たとえば、相手に胸倉をつかまれグイっと引き寄せられたような、非常に接近した間合の場合。

 武芸や格闘技に熟練した者であれば、こうした接近戦の間合でも、山突きや下突き、ボディアッパーやショートフックなどによる有効な拳での打突ができるのだが、これは初学者には、なかなか難しいものだ。

 しかし手刀であれば、こうした接近した間合でも、比較的「安全・安価(簡単)・有利」に、初学者でも使用することができる。具体的には、手刀による鎖骨打ちや脾臓打ち、金的打ち、(広義の手刀にあたる)底掌による下昆打ちなどは、この点でたいへん効果的であろう。


 さて上の写真では、親指を折り四指を伸ばした空手道の手刀と、一部の柔術にみられる五指を開いた手刀の写真を示した。

 五指をひらいた手刀について、「指を開いているので、すぐに相手を掴んで、投げ技や関節技に移行しやすい」などといった解説がされることがあるが、これについてはいかがなものかと思う。実際のところ空手道式の指をそろえた手刀でも、瞬間的に相手の着衣を掴むことは、多少稽古を積んだものであれば、特別難しいものではない。

 私は、合気柔術系の稽古で五指を開いた手刀打ちを、空手道では指を揃えた形での手刀打ちをそれぞれ学んだけれど、五指を開く形の手刀の意味は、もっと別のところにあるように思う。

 たとえば古い空手の教本では、手刀の中でも特に、手首を屈して小指側面底部の豆状骨部分で当てる技を「青竜刀」と解説することがある。経験的にいうと、この「青竜刀」での打ちをする場合、五指を開いた手刀の方がより打ちやすい。特に非常に接近した間合で、剣術の押し斬りのように手刀を直線的に突き込む、あるいは摺り込むように鎖骨や首、月影や稲妻などの急所を打つ際に、それを顕著に感じるのである。

 これは五指を開くことで、小指側の短掌筋や短掌指屈筋が緊張して固くなり、これによって豆状骨部分を意識しての「点」の打ちがしやすくなるからではないだろうか。

 また、いわゆる合気上げのような接触・離脱技を行う際に、空手式の指を揃えて伸ばした手刀よりも、五指を開いて張った手刀の方が遣いやすいという指摘もある。しかしたとえば、私が学んだ天神真楊流の手解の業である「鬼拳」では、親指を曲げずその他の四指を揃えて伸ばす形の手刀の手形を使っていた。

 なお、こうした「接触・離脱技」ににおける、五指を開いた手刀の手形の意味については、ちょっと話しが複雑になり、また私自身にあまり自信のある知見が少ないので、ここでは触れないことにする。


 さて、五指の開いた手刀は合気柔術系の武術によく見られるものの、すべての柔術流儀の手刀がそうであるわけではない。先述の天神真楊流のほか、たとえば手元にある書物を紐解いてみても、真蔭流柔術の教本では手刀は四指をまっすぐ伸ばし親指も曲げた空手道と同様の手形となっている。

140204_真蔭流の手刀
▲古流柔術である真蔭流では、親指を折り四指を伸ばした「空手式」の手刀の手形を示す(『実戦古武道 柔術入門』菅野久著/愛降堂より引用)


 このように、ひとことで柔術の手刀の手形といっても、諸流にさまざまなものがあることは覚えておきたい。

 一方で空手道に置ける手刀の手形についても、じつは非常に興味深い点があるのだが・・・、ちょっと長くなりぎたので、これについては次回述べることにしよう。

 (つづく)
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