手刀二態(その2)/(武術・武道)
- 2014/02/06(Thu) -
 さて、空手道における手刀は、一般的には「親指を曲げて手のひら側につけ、それ以外の四指を伸ばしてそろえる」ものとされる。

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▲『ビジュアル版 図解コーチ 空手道』(前田利明監修/成美堂出版)より。ちなみにこの本は、基本的な組手に役立つ技法やトレーニングの解説が秀逸である


 ところが古い空手道の書籍や資料などを見ると、必ずしも手刀において「四指を伸ば」してはいない。四指を曲げるように解説しているものや、文章上は「四指を伸ばす」としながらも、写真や図解では明らかに四指を曲げているものが少なくないのである。

 たとえば1978(昭和53)年に発行された『新空手教範』(祝嶺制献著/日本文芸社)を見ると、手刀の説明文では「全指を伸ばした状態で、小指側の中手骨部よりの軟らかい部分」としているが、写真は明らかに四指をかなり深く曲げていることが分かる。

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▲『新空手教範』(祝嶺制献著/日本文芸社)より


 ただしこの写真はスペースが正方形なので、「もしかしたら写真の枠に収まるように、あえて四指を曲げているのかも・・・」との見方も、できなくはない。

 そこで、同じく祝嶺師の著作である1982(昭和57)年発行の『完全図解 空手鍛錬三カ月 四肢五体の武器化』(祝嶺制献著/日本文芸社)を見ると、やはり説明文では「全指を伸ばした状態で、小指側の中手骨部よりの軟らかい部分」と、前述書とまったく同じ文面での説明であるが、そこに添えられている図では、明らかに四指を曲げていることが分かる。

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▲『完全図解 空手鍛錬三カ月 四肢五体の武器化』(祝嶺制献著/日本文芸社)より。四指を曲げていることは、明白である


 さらに、やはり1982(昭和57)年発行の『強くなる空手の秘訣』(山本権之兵衛著/有紀書房)では、「手刀打ちのポイントは、まず掌を伸ばしきりにせずやや曲げて親指を掌の側面につけた形から、次の動作で練習します。(以下略)」と解説。明確に、四指を曲げることをポイントとして説明している。

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▲『強くなる空手の秘訣』(山本権之兵衛著/有紀書房)より。四指をかなり曲げていることが分かる


 経験から言っても、実際にサンドバッグや巻き藁、柱などを叩いて鍛錬をしたり、試割りなどをすると、手刀については四指を真っ直ぐに伸ばすよりも、軽く曲げて打った方が、より打ちよいと感じるのは、私だけではないだろう。

 一方で、形の稽古などで手刀の指をあまり深く曲げていたりすると、指を真っ直ぐ伸ばすよう指導されるはずだ。この辺りが、武術という視点からみた「形の競技化による弊害・形骸化」ではなかろうか・・・。


 さて、余談であるが、手刀に関するこんな私見を書いていたところ、不思議な偶然(?)で、昨日の稽古で糸州流の先生から、手刀の手形についてご指導をいただくことができた。こういう偶然があるから、人生は面白い。

 それによると、手刀の手形のひとつのコツとして、親指を掌側に折り曲げず、人差し指の付け根あたりに指先をつける手形もあるとのことであった。

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▲親指を折り曲げず、人差し指の付け根部分に添える形の手刀


 この手形で、実際に柱等を打ってみると、四指を伸ばしたままでも指がしっかりとそろい、四指を曲げて打つ場合と同等の感覚で打てることが分かる。

 逆に言えば、四指を伸ばし、かつ親指を掌側に折り曲げる形の一般的な手刀の手形は、四指を曲げる、あるいは親指を曲げずに人差し指に添える手形に比べると、実際に対象物を打つ際に、掌の安定感に欠けるように感じるのである。


 こうした点から、実際に手刀で物体を打つ場合には、四指は軽く曲げるというのが、ひとつの「口伝(コツ)」となるではないか?

 このような視点でもう一度、一般的な手刀の例として最初に示した『ビジュアル版 図解コーチ 空手道』の写真を見ると、説明文では「4本の指を伸ばしてそろえ」としながらも、実は写真をよく見ると、中指と薬指の先端がほぼそろえられてしっかりと密着しており、ごく軽くだが指が曲げられていることが分かるはずだ。

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▲薬指と中指の先端がほぼそろっていることから、中指が軽く曲げられていることが分かる


 以上、手刀の手形について長々と述べてきた。

 手刀に限らず、こうした手形の工夫というのは、武術において、先人先達の工夫研鑽の賜物であり、今後も機会を見つけて考察・検討していきたいと思う。

 (了)
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