現代印地考~その2/(手裏剣術)
- 2014/03/16(Sun) -
 手裏剣術者たるもの、たとえ身に寸鉄も帯びていなくとも、とっさの場合には身の回りの物を「手裏剣に打つ」心構えが肝要である、というのが前回までの話。

 一方で、いざというときに投擲するために、あらかじめ自作しておくべき手裏剣以外の「打物」について、口伝として伝えている流儀は少なくない。これらの業は、いわゆる「遠当ての術」というものだ。

 同じ「遠当ての術」でも、インチキくさい・・・というか、武芸の業としては限りなくインチキである、感応・暗示系の旦那芸とはまったく異なり、良いにつけ悪いにつけ即物的なものである。


 まず、古流でよく伝えられているのが、卵を使った打物だ。生卵の上下に小さな穴を開けて、中身を取り去る。空になった卵を陰干しし、よく乾いたら、中身を取り去るために空けた穴の一方を蝋や和紙でふさぐ。そして残りの穴から、石灰と粉末状にした唐辛子を混合したもの※を入れ、穴を蝋や和紙でふさぐ。一朝有事の際には、これを握りつぶすと同時に、相手の顔面に向けて打ち込むのである。

 また、さらに簡便なものとしては、理科用品店などで販売している鉄粉(アマゾンや楽天でも買うことができる)を購入する。これに粉末状の唐辛子または胡椒(荒挽きではなく、昔風の粉末の細かいもの)を加えてよく混ぜる※。それを掌の中に納まる程度の大きさになるように、和紙でくるむ。使用する際には、上記の打物と同様、握りつぶすと同時に、相手の顔面に打ちつける。

※)古伝では、これらに加えてさらにある生薬を混ぜるとされるが、毒性が強い物質のためここでは記述しない。なお、その物質を混入しても、あるいはしなくとも、打物としての効果にはほとんど変わりはないと思われる。


 上記の2タイプの打物は、古流諸派によくあるものだが、和紙や鶏卵の殻を使うなど、いかにも古色蒼然としたものだ。そこでお勧めなのが、フィルムケースの活用である。

 といってもフィルムケースというのは、デジカメしか知らない若い人には、なじみがないかもしらん・・・。

 上記と同様に調合した粉末(個人的には、鉄粉+胡椒+唐辛子がオススメ。割合はヒミツ)を、フィルムケースに充填し蓋をしておく。そして有事の際には、キャップを親指ではじくようにしてはずし、相手の顔面に打つのである。

 フィルムケースの利点は、和紙や鶏卵の殻と違って、誤って破れたり割れたりする可能性が低いことだ。また、これらの打物は、内容物が湿ってしまうと効果が十分に発揮できないのだが、フィルムケースであれば、そういった心配もない。

 なお、かつては日常生活のなかで、簡単に手に入ったフィルムケースだが、いまや完全に一般の人の身の回りから姿を消してしまったのは、なんとも残念である。しかし、ほぼ同じ構造のフィルムケース型容器というのが、アマゾンや楽天で購入できる。

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▲フィルムケース型容器。従来のフィルムケースに最も近いサイズはNo.8


 このような、いわば「催涙型」の打物については、「そんなものを持つのであれば、催涙スプレーを持ち歩けばいい」という意見もあろう。

 まったく、ごもっともである。

 ただし、市販の催涙スプレーについては、護身用に持ち歩いた場合、警察官に見つかると没収される可能性が非常に高いことは、覚悟しておいたほうが良い。また信頼性の高い製品は、それなりの値段であり、しかも購入後、使用期限が定められていることも覚えておきたい。

 ちなみに私が推奨する催涙スプレーは、こちらである(http://www.s-web.or.tv/syouhin/f-605.html


 さて、武芸に伝わる打物には、「催涙系」でないものもある。中には、かなり殺傷力の高い手製できる打物もあるのだが、安全や公共性の観点から、そういったものの知識はここではふれない。

 そこで比較的殺傷力が低く(といっても、当たればかなりの威力がある)、しかし十分に対敵に活用でき、比較的良く知られている打物に、印地鉄や鉄礫がある。これらは文字通り鉄製の礫で、エッジを鉈刃状にして、より殺傷力を高めたものなどもある。

 現代において、こうした印地鉄や鉄礫の代用となるのが、大型の六角ナットだ。差し渡しが40~50ミリほどの六角ナット(規格で記すとM24~M30)は、ちょうど印地鉄や鉄礫と同じような大きさであり、重量も100~200グラムと、重量手裏剣なみの十分な重さになっている。

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▲何の変哲もない六角ナットも、手裏剣術者
が打てば印地鉄・鉄礫という武具になる


 六角ナットの鉄礫(ナット礫)は車剣以上に打つのが簡単であり、一般的な手裏剣術者であれば、通常の打剣の体動のままで、手之内の操作と離れを少し修正すれば、五間尺的程度はごく容易であろう。またナット礫は、普段携帯していても、官憲に咎められることもない。ある意味で、現代の手裏剣術者にとっては、最も理想的な護身具だといえるだろう。

 なお、ナット礫にしても、フィルムケース型催涙礫にしても、ただ知識として知っておくだけでは意味がない。護身に活用しようというのであれば、少なくとも年に数回くらいは、的に打って実際の感覚を体感しておくことが重要だ。

 また、不本意ながらこれらの武具を使用しなければならない場合、前回の記事でも記した通り、打った後には必ず、速やかに相手を制圧するか、あるいはその場から避難するべきである。印地が顔面にヒットして相手がうずくまったからといって、ぼけ~っとその場に突っ立っていては、相手に反撃されてしまい、重篤な被害を受けることになりかねないことを、ゆめゆめ忘れてはならない。

 (了)
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