三日月蹴り、いろいろ/(武術・武道)
- 2014/05/15(Thu) -
 空手道の蹴り技に、「三日月蹴り」というものがある。

 名前が個性的で好きな技だ。が、しかし、どうもいまひとつ、その定義というか実態があいまいな技でもある・・・。

 たとえば、今手元にある『図解コーチ 空手道』(道原伸司著/成美堂出版/1997)を紐解いてみると、

「三日月蹴りは、回し蹴りに似ているが、異なる点は膝関節の伸展ではなく、立っていた位置から目標に向かってスムーズな半円つまり三日月型となるように足をふり上げる」

 とある。

 つまり、回し蹴りのように膝をかい込まず、脚全体で半円を描くような軌道で、上足底で蹴るというものだ。

 私自身、そのように理解をしていた。

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▲『図解コーチ 空手道』(道原伸司著/成美堂出版/1997)より。この書籍はコンパクトで地味ながら、非常に分かりやすく、基本から組手まで内容の濃い良書である。平安の形も、初段から五段まで、すべてに全空連・ピンアン・平安の3つ挙動が示されており、たいへん参考になる


 ところが今回、「ちょっと三日月蹴りのことでも書くか・・・」と思い、ネットを検索してみると、フルコンタクトカラテでも、三日月蹴りがよく使われているというのを知って、いささか驚いた。

 なぜかというと、私の理解では三日月蹴りというのは、いわば現在の回し蹴りの原型的な「古典的な蹴り」であり、膝のかい込みがないために速度が出ず、伝統派空手道の自由組手では、ほとんど、というかまったく使われない技であると思っていたからだ。

 そこで、フルコンタクトカラテの三日月蹴りというものを調べてみると、伝統派空手道の三日月蹴りとは名前こそ同じだが、いささか趣きの異なる蹴り技であることが分かった。

 フルコン式の三日月蹴りというのは、膝をかい込んで、蹴りの軌道が前蹴りと回し蹴りの中間あたりのラインをたどるようにして、上足底で蹴るというものをいうようだ。

 ことに、左構えからスイッチステップをしての中段への左三日月蹴りは、相手のレバーに当たり、またフルコンタクトカラテでは多くの場合、回し蹴りは背足や脛で蹴るので、上足底を効かしたこの蹴りは非常に有効なのだと解説されていた。

 ただし、伝統派空手道を稽古している者としては、こうしたフルコン式の「三日月蹴り」は、「軌道が変化した中足での中段回し蹴り」であり、三日月蹴りとはちょっと違うような気がするのだが、どうだろう。

 おそらく、ここでの「三日月蹴り」という名称は、

1.蹴り足の軌道が前蹴りのようにまっすぐではなく、しかし基本の回し蹴りのようでもない、その中間の軌道を(半円=三日月型)を描いて蹴ること

2.フルコンタクトカラテの一般的な回し蹴りが背足や脛で蹴るのに対し、この蹴りは上足底で蹴る

 以上の2点から、一般的な回し蹴りと区別するために「三日月蹴り」と呼んでいるのではなかろうか。

 ちなみに、ウィキペディアに記載されている「三日月蹴り」の解説は、このフルコンタクトカラテ式三日月蹴りである。


 さて、それでは伝統派空手道では、「三日月蹴り」という技が明確に定義・運用されているかというと、これもまた、いささか分かりにくい。

 たとえば、バッサイ(大)の形の後半に出てくる蹴り(『空手道形教範』財団法人全日本空手道連盟:編 ベースボールマガジン社/2000では、第29挙動にあたる)は、私は三日月蹴りだと思っているのだけれど、この教範には「回し蹴り」と記述されている。

 あるいは、私が学んだ平安五段の形には、後半に三日月蹴りが出てくる系統のものだったが、『隠されていた空手』(桧垣源之助著/チャンプ/2005)では、「三日月蹴り」ではなく、「煽り蹴り」と表現されている。

 これらの「三日月蹴り」「回し蹴り」「煽り蹴り」は、いずれも、いわゆる膝をかい込んだ蹴りではなく、膝を伸ばしたまま(というより、「膝をかい込まない」と表現した方が、より適切か?)半円形の軌道で上足底、あるいは足底全体や踵で蹴るものであり、結局のところ伝統的な表現をすれば、「三日月蹴り」なのではなかろうか・・・? と思うのである。

 ま、あくまでも単体の技の名称であるからして、流儀や会派、指導する人ごとに表現が異なってくるのはいたしかたない訳であり、こだわるほどの問題ではないのかもしれないが、どうしても「名称」や「表現」、「定義」が気になるのは、モノカキの職業病なのかもしらん(苦笑)。

 個人的に思うのは、伝統派空手道の三日月蹴り(あるいは波返しや掛け足)は、相手の突き手の肘や蹴り足の膝に蹴り込む「痛み受け」、脚の付け根や膝への関節蹴り、足絡みなどの関節技、対武器に対する防御技など、試合組手では使えないが武術的局面では非常に有効性のある、玄人好みの蹴り技だと思っている。

 (了)
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