護身術談義/(武術・武道)
- 2014/08/18(Mon) -
「街中でからまれたりしたら、どんな技が一番効果的ですかね?」
 過日、抜刀術が専門の若い武友であるAさんに、こんな質問をされた。

「そりゃあ逃げるのが一番だよ。俺は持久走は結構早いんだ、小学生の時から」
「・・・いやそうではなくて、逃げられないような状況で、いきまり絡まれるような状況でということです」
「それはもう、ケースバイケースで、なんともいえないよね。で、Aさんならどうするの」
「自分は、やはり前蹴りが一番効果的なのではないかと思うのです」
「なるほど。Aさんは若い頃、かなりブイブイ言わせてたらしいからねえ(笑)」
「いや、そんなことはないです・・・」
「たしかに、派手な回し蹴りとかよりは、いわゆる『ヤクザキック』的な低い前蹴りのほうが、実は喧嘩なれしている人はよく使う効果的な技なんだよな。ただ、基本的に日常生活で闘争に巻きこまれるような場合、蹴りとか使えないようなシチュエーションも少なくないでしょう」
「たとえば?」
「飲み屋のカウンターで、隣の席に座っている相手からまれたら蹴りは使えないでしょう。テーブル越しに口論になるとか、あるいは込み合っている電車の中でそういう状況になった場合も、蹴りとか使いにくいよね」
「確かにそうですねえ」
「それよりなにより、蹴りは足をとられて転ばされるのが怖いよな。相手が複数だったりしたら、こかされたら、後はぼこぼこでしょう」
「なるほど、そうですねえ」
「そういう意味では、とっさに使って身を守るという意味では、やはり蹴りなどの足技よりも、手技のほうがより『安全・安価・有利』な蓋然性が高い」
「また難しいことを言う」
「要するに、その場の状況でより効果的な技は千変万化なのだけれど、足技より手技のほうがリスクがより少ないということさ」
「ということは、やっぱグーパンチですか」
「いやいや、拳での突きって、こちらも怪我することが多いんだよね。歯で切ったり。それに、こちらも酒が入っていたり、足場が悪かったりすると、意外にジャストミートさせにくいしな」
「じゃあ空手チョップっすか?」
「・・・。まあ生真面目に答えれば、いわゆる目打ちとかバラ手と言われる柔術系の当身かな。これがいちばん使いやすいし、当てやすいし、効果的だと思うよ。ポイントは、ノーモーションでいきなり、手首のスナップを利かせて相手に眉間に当てること。当たると相手は、必ず一瞬顔をそらすか目を閉じる、あるいは前かがみになるから、すぐに両手で突き飛ばす。そしてダッシュで逃げる!」
「結局、逃げるんですか?」
「当然だ。三十六計、逃げるが勝ちだぜ。やりすぎて恨みを買ったり、後々付け狙われたりしたら嫌でしょう。一発かましたら、すぐに逃げるのが最良だと、その昔、北方謙三センセイもホットドックプレスの連載で書いていたぜ」
「なるほど。そりゃあ、そうですね」
「もう少し技術的な話をすると、目打ちと同様にたとえば空手道の孤槌もいいね。手首の付け根部分の手の甲側を当てる技だ。私が空手道で、特に組手の稽古でご指導をいただいたB先生はこれが得意でね。上下左右、あらゆる方向から孤槌打ちを使うんだよ。飲み屋のカウンターなんかで横に座っていて、なにかあるとポンと当てたりとかね。これ、まずよけられないから」
「でも、手首を当てるって、こっちも痛くないですか?」
「意外に痛くないもんだよ、しっかり手首を曲げて打ち込めばね。もっとも、弧槌部分を地面に付けての腕立て伏せくらいできないと、実際には使えないだろうけどな」
「やはり、ある程度鍛えておかないとダメなんですね」
「ま、最低限はね。でもそれは、バラ手の目打ちも同じだよ。普段からミットやサンドバッグ、自分の太ももなどで、実際に当てる感触を知る稽古をしておかないとね。重要なポイントは、バラ手も弧槌打ちも共通していることとして、どんな姿勢からでも、どんな状況でも、ほとんどノーモーションで相手に打ち込める技だということなんだよ」
「構える必要がないんですね」
「そう。腕をだらっと下げた状態からだろうが、グラスを持った状態だろうが、あるいは鼻をほじっている体勢からでも、これらの技はノーモーションで打てる」
「鼻をほじるのはちょっと・・・」
「ま、それはモノノタトエというやつだよ」
「それじゃあ手裏剣術家としてはどうですか、こういう場合」
「そりゃあ、なんでもいいから、手元にあるものを相手の顔にぶつけることだね。ちゃんと知新流の伝書にも書いてあるよ、手元の煙草盆を相手にぶつけろとか」
「ぶつけるものは、何でもいいんですか?」
「まあ、ハンカチとかお手拭とか、文庫本なんかだったら、打つというより、ふわっと顔にむけて放(ほお)るほうがいいだろうね。いわゆる柔術で言うところの『霞をかける』というやつさ。灰皿とかコップなんかだったら当てる感じかね」
「霞をかけるというのは、また言いえて妙ですね」
「うん。この場合、一番いいのは、液体だな。グラスに入っている酒や水など相手の顔にかけてやるのが一番だよ」
「でもそれだけじゃあ、相手はダメージがないでしょう? それどころか、顔に水やら酒をかけられたら、激怒して追っかけてきますよ」
「だ・か・ら、顔に酒をかけられた相手が目を瞑って一瞬固まっているすきに、突き飛ばしてすぐに逃げるんだって」
「結局、逃げるんですか」
「孫子先生もいってるでしょう、はじめは処女のごとく、終わりは脱兎のごとしと」
「それはなんか違う気がするんですけど・・・」
「だいたいね、武術・武道をやっている人間であれば、そもそも日常生活の中でからまれたり、危機に直面してしまった段階で己の不徳、人生の勝負としては負けなんだから、普段から身を正しておくことさ。というわけで、野暮な話しはそれくらいにして、もう一軒飲みに行こうぜ!」
「はい、からまれないように、おとなしく静かに飲みましょう(笑)」
「おう!」

 (おしまい)
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