柳剛流深井派の師範家を訪ねて(その1)/(柳剛流)
- 2015/04/17(Fri) -
 柳剛流の特色のひとつに、「師家の無制約」がある。

 埼玉県の古流武術研究で知られる埼玉大学の山本邦夫教授はこれについて、「流祖に師事し、免許の印可を受けた門人たちが、全国各地に散らばり、そこで道場を開設して弟子を養成し、流盛の発展に努めた」と指摘。

 このため柳剛流では、二代目の道統が奥州・角田に移った後も、武州を中心に松田派や岡田派、岡安派や中山派など、多くの免許受領者が、それぞれ流儀の教線拡大を図っていた。

 こうした柳剛流師範家のひとつに、日光街道上野田村(現在のさいたま市緑区上野田)で柳剛流を指南した深井家がある。同家の門流は、深井柳剛流として、万延元(1860)年に発行された『武術英名録』にも、その名が記されている。

 深井派剣一世の深井源次郎智安は文政11(1828)年に当地に生まれ、弘化3(1846)年、岡田十内に入門。嘉永7(1854)年に免許を印可され、以後、武州足立郡上野田村の生家に道場を開き、門弟を育成。その剣脈は、孫の剣三世・源次郎まで続いた(剣三世の源次郎は、原田宇竟、寅之輔に師事)。

(なお、山本教授の記した文献では、深井源次郎の生年が文化7(1824)になっているものがあるが、これは間違いであることを現当主・深井治男氏は強調していた)

見沼用水
▲深井家のすぐ近くを流れる見沼代用水


 桜の花も大方散った頃、深井家を訪ね現当主の治男氏にお話を伺った。

 まずは深井家に残されている、柳剛流の切紙と目録を拝見する。

切紙2

切紙3

切紙4

切紙5

 この切紙は、深井派・剣三世の深井源次郎が、原田宇竟から受けたものである。備之伝や剣術形の「右剣」と「左剣」、居合五本は、仙台藩伝や岡田派など他系と同一であるのに比べ、多くの系統の柳剛流で切紙段階で伝授を受ける突杖が記されていないことが特徴的である。

 続いて目録。

目録2

目録3

目録4

目録5

 この目録で着目したいのは、剣術形の名称である。柳剛流について各派の伝書を見ると、切紙についてはほとんどの伝系で差異がないことに比べ、目録の剣術形の名称は、各派はもちろん同一派内でも差異があり、この深井源次郎(剣三世)が受けた目録の形と角田系の仙台藩伝の形をつき合わせると、合致するのは「相合刀(剣)」と「無心剣」のみである。ちなみに、岡田十内系と角田系仙台藩伝の目録の剣術形の名称と本数は、概ね合致している。


 続いて、深井家に残されている、柳剛流の木太刀を拝見する。

木太刀2

木太刀4

木太刀5

木太刀6

木太刀7

 写真では比較対照するものが無いから分かりにくいかもしれないが、長さは最も短いもので129センチ、最も長いもので134センチ。仮に柄を一尺とすると、概ね三尺三寸の刀に相当するであろう。ちなみに幕末の柳剛流を代表する剣客・岡田十内の差料は、三尺八分で切先は諸刃造りであったという。

 木太刀の形はいずれも直刀で、4本のうち3本は庵棟、1本は三棟、切先は1本は菖蒲造り風、1本は横手筋が付いた小切先風、1本は上記2つの中間風、もう1本は古流の木太刀に見られる切先を切り落とした形状となっている。

 太さは一般的な木刀よりも若干太い程度で、握ってみても違和感はほとんどない。

 実際にこの木太刀で素振りをさせていただいたが、重さも一見かなり重そうに見えるが、実際には杖道で使われる四尺二寸一分の杖よりも気持ち重いかなという程度で、長さに慣れれば取り回しにそれほど苦労はしなさそうである。

 材質は定かではないが、4本中2本は、現在の木刀によく使われている白樫と同じような感触であり重さであった。また他の2本は、スヌケのような色合いと感触であった。

 治男氏の話では、表面に柿渋が塗られているのではないかという(深井家の家業は、当時も今も、柿渋であるとのこと)。

 いずれの木太刀も、当然ながら一本一本自作されたものであり、峰のラインが切先に向けてややずれていたり、切先の形がいずれもいかにも手作り風なところに独特の味わいが感じられた。

 またこれも治男氏の話しでは、柳剛流ではどの派でも木太刀は門人の自家製であり、特に厳密な規定は無かったようで、長さなどまちまちであったのではないか、とのことであった(これについては、他派の木太刀なども実見して、検証したいところである)。

 なお深井派剣三世の源次郎は、常に三尺ほどの木太刀を杖として携帯し、眠るときにも肌身から話さなかったという。


 一通り資料などを拝見した後、現当主の治男氏に、深井派柳剛流に関する逸話を伺うことができたが、それについては次回に。

■蛇足
 深井師範家においても、柳剛流は「リュウゴウリュウ」ではなく、「リュウコウリュウ」と読んで/呼んでいたとのことである。

 (つづく)
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