体験的当身考/(武術・武道)
- 2015/07/07(Tue) -
 前回記事で、柳剛流の殺法についてまとめながら、つらつらと当身について考えた。


 私は1999年から10年ちょっとの間、思うところあって古流の稽古を離れ、伝統派空手道を自分の武術稽古の中心としていた。

 伝統派空手、ありていに言えばいわゆる「寸止め」空手というやつであるが、フルコンタクトの人たちほどではないにしろ、私が空手の門を叩いたころは、試合組手については今ほど接触に敏感ではなかった。というか、道場での地稽古はもちろん、市区町村での公式試合や自流の全国大会では、多くの場合ほぼ「当て止め」でないと、有効打としてとってもらえないことが少なくなかったように思う。

 ちなみに言うと、その後次第に組手時の「接触」に対しての判定が厳しくなり、2005~6年くらいから、ごく軽い接触でもほぼ確実に「注意」が与えられるようになったように思う。これはまあ、あくまでも主観だけれども。


 そんな感じだったので、当時、道場での地稽古や試合組手の稽古では上段以外はほぼ当て止め、上段についても「寸」止めでは「とりません!」となってしまうので、「分」止めというか、拳サポをしているのでほぼライトコンタクトというのが実情であった。

 このため、有段者同士であれば突き蹴りのコントロールはある程度できているし、素面での組手だったのでそれほどでもないのだが、有級者同士の組手では拳足のコントロールが未熟な上にメンホーという防具をつけているため、その防具の前面部に「ガツン!」と当たるくらいでないと有効打として取ってもらえなかった。

 そして、たとえば接近戦での打ち合いという場合はそれほでもないが、遠い間合から双方が一気に飛び込んでのぶつかり合いでは、「予期せぬジャストミート」というのがたびたび発生したものである。

 私はインタビューが多い仕事柄、前歯だけは絶対に折りたくなかったので、上段攻撃に関しては全身全霊を込めて必死で防御していたので、幸か不幸か1度だけ他流の外国人空手家に回し蹴りを食らって奥歯を折られただけで済んだけれど(外人さんというのは伝統派でも総じて寸止めをしたがらない、というか当てたがるので困る)、一方で中段の突きや蹴りは、普段の稽古からいいのをよくもらった(苦笑)。

 なかでも、こちらがパッっと踏み込んだ瞬間に合わせて、カウンターでドン! っと入れる中段逆突きが得意なA師範には、地稽古でよく思い切り水月に突きを入れられ、何度も悶絶させられたものである。

 そのA師範いわく、「市村さんは突っ込みがいいから、どうしてもカウンターが思い切り入っちゃうんだよね・・・」とのこと。つうか、ちゃんと止めてくださいよ! とはいえない、武ばった雰囲気が、当時の空手道場にはあったものである。

 このケースでは、ボクシングのグローブ同様、空手用の拳サポーター(拳サポ)による浸透力効果のためもあってか、とにかく水月に一発良い突きが入ると、息ができなくなったように昏倒してしまい、前のめりに倒れるものである。ことに、いわゆる競技空手で言うところ「ワン、ツー」で、まず相手の意識を一度顔面部にふったところで、気の抜けた水月にドカンと当てると、たいへん良く効いた(効かされた)ものだ。

 一方で、明星あたりの下腹部分については、有段者レベルの者が真剣に組手をしている場合、ちょっとやそっと当たっても、特段問題はなかったように思う。

 巷間よく言われているように、筋肉で覆われている部分については、ある程度鍛えている者が、しかもあらかじめ「当たるな」と思っていれば、それほど効かないものである。急所といえども、あくまでも気が抜けたとことろに入るからこそ効くということは、重要なポイントだろう。

 逆に、当たることを意識していても、どうしても効いてしまう部位というのもある。

 その典型がご存知の金的で、とくに中途半端な軌道で、前蹴りと回し蹴りの中間のようになる蹴り(一部フルコンタクト空手会派が言うところの三日月蹴り。伝統派の三日月蹴りとは異なる)は、よく金的に当たったし、自分も当てられたものだ。

 この場合、厳密には金的というより“竿”の部分になることが多いわけだが、これもまた実に痛い。軽くかすっただけでもよく効く。そしてこの場合も、上記の水月の当て同様、当てられた方はたいがい前のめりにしゃがみ込んでしまうのが通例であった。

 また肋骨部分、柔術の当身的に言えば電光や月影といった部分は、筋肉で守られていないので、中段の突きや蹴りなどがタイミングよく入ると、よく効いてヒビが入ったりした。もっともこの部分は、しっかりと構えていれば早々簡単に当てられる場所ではないし、蹴りであれば肘でカットしやすいので、水月や金的に比べると、稽古や試合中に当てられて昏倒したり怪我をする人は少なかったように思う。

 顔面部の急所の数々も、鍛えたり意識を強く置いて痛みを防ぐことが難しい場所だが、さすがにこれらを空手の稽古や試合中に、思い切り打ったり打たれたりしたことはあまりない。

 ただし、仲の良い同門との遊び的な組手稽古で、相手が突然、首相撲をしかけてきて(本人いわく「平安4段の技の分解を試してみた」とのこと・・・)そのまま首を抱え込まれて、鳥兎に膝蹴りを入れられたことがある・・・。

 まあ、遊び稽古中の事故みたいなものだが、これもまた実に効いた。蹴りを入れた方も、「しまった!」とあわてるほど思い切り私の顔面に膝がヒットしたわけだが、今思うと鼻じゃなくて良かった(笑)。

 蹴られた瞬間は、「ガキン!」と金属をぶつけられたような、鋭い痛みが走った。首を抱え込まれての顔面への膝蹴りだったので、後方に吹っ飛ばれることはなく、これまた前のめりに倒れてしまった。

 ところが、その後、思ったほどダメージはなく、相手が「病院に行ったほうがいいよ」というのも気にせず、そのまま家に帰って酒を飲んでとっとと寝ちまったわけだが・・・・、翌朝、大変なことになっていたのである!

 朝起きると、結構顔が痛いので(当たり前である・・・)鏡を見ると、自分の顔がエレファントマンみたいにはれ上がっているのである。鳥兎の部分を中心に、顔面中央部がボッコリと盛り上がって、顔の凹凸がまったく無くなったような状態なのだ。

507_エレファントマン



 分別盛りの今なら、その場ですぐに病院に駆け込むところであるが、当時はまだ30代前半、気力満点のお年頃であり、「けっ、てやんでい!」ってな感じでそのまま仕事に出かけたところ、同行した編集者が肝をつぶし、無理やり病院に連れていかれた・・・。

 レントゲンやらCTやらいろいろ検査をされたが、幸い、脳には損傷はないとのことである。ただ嘘かホントか、「ちょっと頭蓋骨がへこんでますよ・・・」と医者に言われ、このまま顔が元に戻らなかったどうしようかということばかりを心配していた、お馬鹿さんな私であった。

 ちなみに今でも指で触ってみると、ちょっと眉間のあたりの骨の形が変形しているのは、ココだけの秘密である(爆)。

 というわけで、たまたま運が良かっただけかもしれないが、鳥兎への当身は、意外に即死などはしないものなのだなと体験的に私は知っている・・・。


 以上、極めて個人的な体験から推察すると、武術において最もよく効いて使いやすい殺(当身)は、やはり水月なのではなかろうか。さすが日本柔術の当身中、もっとも重要な殺と言われるだけのことはあると思う。

 ただし繰り返しになるが、殺法では多くの場合当てる際の拍子が重要であり、金的や日月など一部の部位を除けば、筋肉で鍛えた相手が、しかも意識を充実させていうところに当てても、あまり効果はないというのは、武道や格闘技経験者ならご存知の通りだ。

 水月といえども、当てる「時」と「タイミング」あっての殺であり、それは殺活術全体にいえる道理である。

 ま、なにはともあれ、当身を食らうと痛いっつうことです(笑)。

 (了)
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