仙台藩石川家の『諸芸師範届』/(柳剛流)
- 2015/07/09(Thu) -
 柳剛流の流祖・岡田惣右衛門奇良は、その道統を一條左馬輔信忠に託した。

 左馬輔は、仙台藩伊達家中の最上位である「一門」であり、さらにその筆頭に当たる石川家の家臣であったことから、柳剛流は石川氏の領地である伊具郡角田に伝えられた。

 石川家は伊達家一門中筆頭というだけに、その領地の石高は2万3382石に達した。江戸時代の各藩では、最小の石高は1万石からといわれ、全国の藩の約18%、51藩が1万石であったという。しかも、たとえば北関東の喜連川藩などは、実質石高で5000石程度しかなかったことを考えると、2万石以上の領地を有した角田・石川家は、伊達家中の一領主とはいえ、実際には小藩並みかそれ以上の規模と勢力を誇っていたといえよう。

 流儀の道統を受け継いだ一條(岡田)左馬輔は、文政2(1819)~5(1822)年ころ、角田に帰郷し石川家剣術師範として柳剛流を指南した。その当時、石川家で指南されていた諸芸とその師範名を記した記録に、『諸芸師範届』というものがある。

 以下、『角田地方と柳剛流剣術 -郷土が誇る武とそのこころ』(南部修哉著/平成26年)と『一條家系探訪 柳剛流剣術』(一條昭雄 編著/平成8年)からの孫引きだが、ここに転載してみよう。


■石川家 諸芸指南届(『角田市史三巻史料編』より)
・神道流鎗術 木幡平記 松浦直治 永沼郡之助 冨田右覚
・本心鏡智流鎗術 毛利善右衛門
・夢相願立剣術 人首弥助 人首安五郎 小川又太郎 小桧山吉太郎 佐藤勇士 桜庭権太夫 西牧伊平 人美冨吉 丸山志津衛 佐藤力之丞 大塚四郎 油丸一郎 大槻文蔵
・天心独明流剣術 大浪平太夫 松浦守衛 小桧山進 油井孫太夫 佐藤三代治
・柳剛流剣術 岡田三馬助 戸田泰助
・信玄流軍学 三森十太兵衛 前田紋之進 浅川助十郎
・信玄流螺術 熊谷兵太夫 横山栄之丞
・中西流算法 安部直衛
・小笠原流礼法 早川求馬助
・不易流鉄炮鋳筒師 松岡丈太郎
・吉田家神道 吉田肥後正 吉田宮門 菊池山城正 菊池多門 石本伊預正 石本刑部 能原能登正 小野彦太夫
・喜多流仕手方 高橋幾三郎
・平岩流笛 小野寺万治 小野寺十助 橋元伊之吉 毛利三郎
・幸流小鞁 佐藤斐之助
・大倉流大鞁 松崎忠太 高林総右衛門 永山繁太郎 宍戸貢 三浦元治 斉藤九郎治 斉藤右仲 大條幸太郎 鈴木利門 浅野伴五郎 
・以心流取打拳法術 鈴木利門
・不易流銃術 岡崎清太郎
・寂影流長刀 佐藤八郎兵衛
・松葉流手裏剣 大浪平太夫
・真明流柔術 松浦守衛 油井孫太夫 佐藤三代治
・高麗流八條家馬術(八條流馬術) 矢吹仲右衛門 小野直一郎 野口的之助 渡部駒蔵 田川■蔵 窪田宇吉 伊藤惣太夫 加藤尉八
・観世流太鼓 加藤末治

 ※「田川■蔵」のみ、一部判読不明


 この『諸芸師範届』には発行年が記されていないとことだが、南部修哉氏の推測では、天保11(1840)~元治元(1864)年の間に作成され、仙台藩に提出されたものではないかという。


 内容に目を向けると、まず剣術流派に記されている「柳剛流 岡田三馬助」というのが、一條左馬輔のことである。

 また、剣術流派の筆頭に夢相願立流と記されているが、これは松林蝙也斎が創始したことで知られる夢想願流のことであろう。師範名も書状中最も多い13名となっていることから、この段階では同流が角田石川家における代表的な剣術流儀であったのではないかと推察される。

 後に、角田石川家の剣術流儀の代表は柳剛流にとって代わるわけだが、その過程で柳剛流と諸流とでどのような確執があったのか?

 後年、一條左馬輔は真剣での立合で相手を殺害し、石巻に逃れて隠棲する。しかし、その後も主家から討手がかかったりはせず、むしろその後も石川家中の剣術流派の中で柳剛流の勢力は拡大し、事実上の御家流にまでのぼりつめたことを思うと、いろいろなことが想像できるだろう。

 また手裏剣術者としては、「松葉流手裏剣 大浪平太夫」との記述も見逃せない。

 第一に、手裏剣術が石川家中の公式な武芸として認められ、師範が定められて指導されていたということは、たいへん興味深い。

 この「松葉流」という手裏剣術がどのようなもので、どのような剣を使っていたのか定かではないが、たとえば後の根岸流にもつながる夢相願立流(夢想願流)が、同じ石川家中で盛んだったというのは意味深長だ。

 また、松葉流手裏剣の師範である大浪平太夫は、天心独明流剣術の師範としても名前が記されている。天心独明流は一刀流系統の流儀だというが、大浪平太夫が指南した「松葉流手裏剣」が、天心独明流に関連するものなのか、夢相願立流に関連するものなのか、あるいはまったく別のなんらかの術の系統なのか、なぞは深まるばかりである。

 (了)
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