心形刀流剣術家の著作にみる、真剣刀法中の断脚之術(その1)/(柳剛流)
- 2016/01/06(Wed) -
 国立国会図書館のデジタルコレクションにて、明治36(1903)年発行の金子愛蔵著『武道教育 剣道二百二拾本勝太刀之法』(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/860492)という書籍が公開されている。

 金子愛蔵は、心形刀流8代目伊庭軍兵衛秀業の弟子を称している人物で、大正11(1922)年に発生した大輝丸事件の首謀者であり、『ステッキ術』の著者としても知られる江連力一郎に、杖術を教授した人物としても知られている。

 金子の記した『武道教育 剣道二百二拾本勝太刀之法』は、真剣立合の攻防合計220パターンを、「先ノ先」と「後ノ先」の2つに大別して解説したものだ。

 その内容はたとえば、

「(先ノ先)第六十五 敵ノ左ノ小鬢ニ隙アルト見トメテ打込際ニ拒(ふせ)ゲハ右ノ小鬢ヘ斬込ム」
「(後ノ先)第三十 左上段ニ構エントスルトキハ胸ヲ突ク可シ」

 といったように、彼我の攻防をたいへん簡潔な記述でまとめたものの箇条書き集である。

 これらは純粋な心形刀流の業というわけではないだろうが、幕末から明治にかけて同流を学んだ剣士が記した、真剣刀法のパターン集としてみるとたいへんに興味深い。

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▲『武道教育 剣道二百二拾本勝太刀之法』には、このような図解も一部掲載されている


 さて、本書の著者である金子が修めた心形刀流は、柳剛流の母体となった流儀である。そこで、本書に記された真剣刀法の中で、仕太刀あるいは打太刀が脚を斬る業をピックアップしてみた。

 その結果、先の先の業12本、後の先の業14本、合計26本の脚斬りに関する勢法があり、これは本書に示された全220本の勢法中の11.8%となる。

 個人的には、これは想像以上に多い数だと感じた。以下、それらの記述をまとめて示そう。


『武道教育 剣道二百二拾本勝太刀之法』にみる断脚之術

■先々ノ先
第四十  敵ノ足ヲ斬ルト見セテ敵ノ右ノ肩ヲ斬ル
第四十一 敵ノ足ヲ斬ルト見セテ敵ノ左ノ肩ヲ斬ル
第四十二 敵ノ足ヲ斬ルト見セテ敵ノ頭上ヲ斬ル
第四十五 敵ノ足ヲ斬ルト見セテ敵ノ右ノ小鬢ヲ斬ル
第四十六 敵ノ足ヲ斬ルト見セテ敵ノ左ノ小鬢ヲ斬ル
第六十六 敵ノ足ニ隙アリト見トメテ打込際ニ拒(ふせ)ゲハ頭上ヘ斬込ム
第六十七 敵ノ足ニ隙アリト見トメテ打込際ニ拒(ふせ)ゲハ右ノ肩へ斬込ム
第七十五 上段ヨリ足ヘ往クト見セテ小鬢ヘ斬込ム
第七十六 上段ヨリ足ヘ往クト見セテ左ノ小鬢ヘ斬込ム
第七十七 上段ヨリ足ヘ往クト見セテ右ノ肩ヘ斬込ム
第七十八 上段ヨリ足ヘ往クト見セテ左ノ肩ヘ斬込ム
第七十九 上段ヨリ足ヘ往クト見セテ頭上ヘ斬込ム

■後ノ先
第二十八 右足ヲ外ヨリ打チ込ミ来ルトキハ右足ヲ退キ八文字踏ミ左肩ヲ袈裟掛ケニ斬ル
第二十九 右足ヲ内ヨリ打チ込ミ来ルトキハ右ノ甲手下ル故ニ敵ノ胸ヲ突ク
第三十三 右足ヲ内ヨリ掃ヒ来ルトキハ右足ヲ退キ八文字ニ踏ミ頭上ヲ斬ル
第三十四 右足ヲ内ヨリ掃ヒ来ルトキハ右足ヲ退キ半体ニナリ左手ヲ以テ右ノ肩ヲ斬ル
第三十七 頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ右ヘ受ケ流シテ右ノ足ヲ外ヨリ斬ル
第三十八 頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ左ヘ受ケ流シテ足ヲ内ヨリ斬ル
第四十二 胴ヘ打チ込ミ来ルトキハ右ヘ受ケ流シテ右ノ足ヲ外ヨリ斬ル
第七十九 敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ右ヘ受流シテ足ヲ斬ル
第八十  敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ左ヘ受流シテ足ヲ斬ル
第八十五 敵ヨリ右ノ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ八文字踏テ敵ノ頭上ヲ斬ル
第八十六 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ引キ半体ニシテ左ノ手ニテ頭上ヲ斬ル
第八十七 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ引キ半体ニシテ右ノ肩ヲ斬ル
第八十八 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ八文字ニ踏テ左ノ肩ヲ斬ル
第百〇二 敵両刀ヲ以テ頭上ヘ打込来レハ受流シテ敵ノ足ヲ斬ル


 いずれの勢法も最低限の簡素な説明であるが、脚斬りあるいは対脚斬りの技術研究には、たいへん貴重な資料であるといえるだろう。

 なお、ここで注意しておきたいのは、著者の金子は、これらの業をあくまでも「真剣勝太刀之法」という真剣刀法の手筋として記述しており、撃剣(竹刀試合)の業とはっきりと区別している点である。

 金子は本書で次のように語る(以下、すべて意訳)。

「真剣の立合は、竹刀の試合とは大いに異なり、一撃をもって勝敗を決し、死生が分かれる。このため真剣の立合では、竹刀試合のように彼我が接して打ち込み、あるいは受け止めるようなことなどできない。必ず先の先をとるか、後の先を取ることが必要である」

「竹刀試合においては鍔競合いがあるが、真剣立合ではほとんど稀である。お互い容易に接近せず、双方がおおむね切先と切先の間3~4尺を隔てて、たとえそれ以上接近することがあっても、すぐにまた離れてしまうものだ」

「真剣立合においては、相手の剣を受け止めることはない。必ず受け流して、すぐに斬り返すべし。単に受け止めるだけで、すぐに斬り返さないと、そこの隙が生じて斬り込まれる」


 次回以降は、先に示した個々の脚斬り・対脚斬りの真剣刀法について技術的な検討を加えるほか、本書に記された二刀の勢法についても、柳剛流の視点から考察してみたいと思う。


■参考ブログ
「酒徒行状記」/江連力一郎と心形刀流(2015.7.2)
http://d.hatena.ne.jp/syuto-yoshikaze/
 
 (つづく)
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