心形刀流剣術家の著作にみる、真剣刀法中の断脚之術(その3)/(柳剛流)
- 2016/01/15(Fri) -
 続いて、明治36(1903)年発行の金子愛蔵著『武道教育 剣道二百二拾本勝太刀之法』(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/860492)から、今回は「後の先」の勢法に示された脚斬りに関連する太刀筋を見てみよう。


■後ノ先
第二十八 右足ヲ外ヨリ打チ込ミ来ルトキハ右足ヲ退キ八文字踏ミ左肩ヲ袈裟掛ケニ斬ル
第二十九 右足ヲ内ヨリ打チ込ミ来ルトキハ右ノ甲手下ル故ニ敵ノ胸ヲ突ク
第三十三 右足ヲ内ヨリ掃ヒ来ルトキハ右足ヲ退キ八文字ニ踏ミ頭上ヲ斬ル
第三十四 右足ヲ内ヨリ掃ヒ来ルトキハ右足ヲ退キ半体ニナリ左手ヲ以テ右ノ肩ヲ斬ル
第三十七 頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ右ヘ受ケ流シテ右ノ足ヲ外ヨリ斬ル
第三十八 頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ左ヘ受ケ流シテ足ヲ内ヨリ斬ル
第四十二 胴ヘ打チ込ミ来ルトキハ右ヘ受ケ流シテ右ノ足ヲ外ヨリ斬ル
第七十九 敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ右ヘ受流シテ足ヲ斬ル
第八十  敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ左ヘ受流シテ足ヲ斬ル
第八十五 敵ヨリ右ノ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ八文字踏テ敵ノ頭上ヲ斬ル
第八十六 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ引キ半体ニシテ左ノ手ニテ頭上ヲ斬ル
第八十七 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ引キ半体ニシテ右ノ肩ヲ斬ル
第八十八 敵ヨリ足ヘ打込来レハ右ノ足ヲ八文字ニ踏テ左ノ肩ヲ斬ル
第百〇二 敵両刀ヲ以テ頭上ヘ打込来レハ受流シテ敵ノ足ヲ斬ル



 第28~29・32~34は、相手がこちらの脚を斬ってきたときの対処である。

 続いて第37~38で、本書にして初めて相手の脚を斬る勝口が示され、以後、第42・79・80・102でも脚斬りでの勝ちとなる。脚を斬って勝つ勢法はこの6本で、本書に示された220本の太刀筋のうちの2.7%。いずれも相手の斬撃を受け流してから脚を斬るというもので、すべて後の先の業である。

 いまひとつ分かりにくいのは、たとえば

・第三十七 「頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ右ヘ受ケ流シテ右ノ足ヲ外ヨリ斬ル」
・第七十九 「敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ右ヘ受流シテ足ヲ斬ル」

 は、どのように違うのかが判然としないことだ。

 同様に、

・第三十八 「頭上ヘ打チ込ミ来ルトキハ左ヘ受ケ流シテ足ヲ内ヨリ斬ル」
・第八十  「敵ヨリ頭上ヘ打込ミ来レハ左ヘ受流シテ足ヲ斬ル」

 も、違いが判然としない。

 37や38が、相手の足を斬る方向を明示しているのに対し、79や80は方向を明示していないので、79や80は、37や38と同じ状況での逆方向からの斬りということなのだろうか?

 はたまた単に全体の勢法の数を、ごろの良い220本にするための員数合わせなのか、いまとなっては定かではない・・・。


 いずれにしても、本書では脚を斬っての勝口は、すべて後の先になっているというのは、先の先の業としては、脚斬りはあまり適していないということの表れだろう。

 多くの人が理解しているように、脚への斬撃は我の上段に隙ができる。また相手が真っ向正面や袈裟に斬ってきて相打ちになった場合、こちらの方が致命傷になる蓋然性が高い。

 ゆえに脚斬りの太刀筋は、後の先、つまり相手を崩す、あるいは相手の脚を斬ることのできる作りの用いるのが最も安全かつ効果的であるということだ。

 こうした戦略は仙台藩角田伝柳剛流の形=業にも明確に示されており、当流の形に示された脚への斬撃はいずれも後の先、しかも脚を斬る前段階での作りや崩しが必須となっている。


 もう1つ、本書の後の先の勢法を見ると、いかに脚斬りを防ぐかという点についての方法が具体的に示されていることにも注目したい。

 千葉周作の「自分の足の踵で自分の尻を蹴るように・・・」といったもの以外にも、本書で示されているカウンターでの斬撃は、対脚斬り業として考察する価値が高いといえよう。

 個人的に興味深いなと思ったのは、「第二十八 右足ヲ外ヨリ打チ込ミ来ルトキハ右足ヲ退キ八文字踏ミ左肩ヲ袈裟掛ケニ斬ル」で、これは相手の左肩以外にも小手を斬るなり押さえるすると、より効果的になるのではなかろうかと思う。

 (了)
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