規範意識/(武術・武道)
- 2016/03/10(Thu) -
 最近、試斬で有名なS流のM氏が、真剣を模擬刀と偽って航空機の手荷物に預けようとし、それが原因でトラブルになったと自らのブログで公表した。その上で、航空会社を非難しているとのことである。

 当該のブログやそれに関する一連のツイッターなどを読んで思うのは、航空会社の日本刀の取り扱いの是非以前に、そもそも人として、このような嘘をついてはいけないということだ。

 「理屈はどうあれ、嘘はまずい」という批判に対して、M氏は「日本刀の航空機持ち込みの手続きの簡略化という目的のためなら、嘘をついて武具を運搬するという手段も正当化される」という主張のようである。

 このように、目的のためには違法・脱法な手段も正当化されるというのは、武術人以前に社会人としての規範意識が極めて低いと思わざるを得ない。

 かつて、捕鯨反対を主張するために、運送会社に不法侵入して鯨の肉を盗み出して逮捕された環境保護活動家がいたが、目的のために手段を選ばないという点で、今回の主張とよく似ているように思う。

 また今回、M氏が嘘をついた理由は、「東京の稽古場から関西の稽古場への移動に遅れそうになった。日本刀を預ける手続きには時間がかかるので、真剣を模擬刀と偽って預けようとした」とのことだが、これもまったく理由にならない。

 そもそもM氏は試斬家として著名であり、しかも刀剣商を生業としている人なのだから、真剣を所持した上での飛行機を使った移動は何度もしており、十分に慣れているはずだ。

 だからこそ、真剣を手荷物に預けるのは煩雑で時間がかかると、経験から知っていたわけだ。

 ならば、そもそもなぜ、そうした時間を見込んでの移動スケジュールを組まなかったのか?

 ビジネスの世界では、誰しもが厳しいスケジュールの中で長距離の移動をこなし、1日に何回もの商談や営業を行っている。こんなことは、誰しもがやっている当たり前のことだ。

 私は武道を行動科学とする野中日文先生に私淑しているが、先生のお言葉を借りれば、M氏の今回の行動は時のアセスの失敗であり、生活行動における拍子の位が未熟だったということであろう。

 自分のスケジュール管理が未熟で、移動が遅れそうになったから、真剣を模擬刀と偽って手荷物に預けようとした。それがばれて職員とトラブルとなったので、空港内で声を荒げたら警察を呼ばれた。航空会社は無礼で不勉強だ、反省しろ! というのがM氏の主張だが、誰がどう聞いてもこれは単なる逆ギレだ。

 ご本人は「日本刀を愛するゆえに・・・」と主張しているようだが、むしろこうした脱法行為や迷惑行為が、武術をたしなむ者や日本刀愛好家に対する社会からの評価をいたずらに下げているということに、なぜ気づかないのかが不思議である。


 もう1つ、今回の出来事に関連して残念だったのが、M氏と親しいというwebでは名の知れた武術人たちが、M氏の行動を諫めることなく、むしろ同調して航空会社批判に論点をすりかえたり、なんとなく取り繕うようなコメントをしていたことだ。

 こういう出来事だからこそ、友の誤った行動を諫めるのが、武友のとるべき道なのではなかろうか?

 武術に関わる者として、含蓄深く勉強になる彼らのブログやツイッターの記事を以前から楽しみに読んできた者としては、節義をゆがめて身内をかばうような姿勢に、正直ガッカリしてしまった。


 人は誰も過ちを起こす。

 誰しもが聖人君子ではなく、至らない点もある。バカをやっちまうこともあれば、つい気がたってしまうこともあろう。

 お恥ずかしいことだが、私だってしょっちゅうある。

 しかし、「公的な嘘はつかない」とか、「弱者に暴力を振るわない」とか、「無害な他人を攻撃しない」といった、公共善に基づいた最低限の規範意識は社会人には必須のものであり、守らなければならない基本的なルールである。

 愚かで至らない人間のひとりとして、時にそれを逸脱してしまったとしたら、頭を冷やして素直に、

 「自分がバカでした。迷惑をかけてごめんなさい」

 と謝るべきであろう。

 あるいは親しい誰かがそんなことをしたら、

 「あんた、間違ってるぞ。反省しろよ」

 と諫言してやるべきであろう。

 愚かなことばかりして生きている未熟な私は、少なくともそのようにありたいと心がけている。

 脱法行為を指摘され、嘘に逆ギレを重ねるというのは、まっとうな社会人として失格であるし、現代の武人としてとるべき兵法=行動科学としても下手(げて)中の下手だ。

 武術・武道以前に、まずは人として「心を修める」ことが必要であろう。

 (了)
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