美濃の剛剣に学ぶ~2008年秋,修行の旅
- 2008/09/30(Tue) -
土曜

 朝7時起床。荷物を抱えていざ,美濃へ。

 今回の修行の旅は,岐阜県中津川市で戸山流居合抜刀術美濃羽会中津川稽古会を主催されており,我が武学倶楽部の会員にもなっていただいている,棚田寛兵衛さんを訪ねる旅である。

 自宅の最寄り駅から,土曜朝の人もまばらな列車で秋津へ。ここでJRに乗り換え,西国分寺から中央線へ。さらに高尾で中央本線に乗り換える。

 この辺りまでくると,車窓の風景も山並みが見えるものとなり,山育ちの私としては,なんとなく郷愁がそそられる風景となる。

 甲府で小1時間ほど電車を待ち,小淵沢でさらに30分ほど乗り継ぎの待ち合わせ。ここでお楽しみの駅弁(『元気甲斐』1300円。二段のお重で,山女の甲州煮や公魚の南蛮煮,鶏の柚子味噌合えなど,山梨の珍味が目白押し! 美味である)をいただく。

IMG_0281_convert_20080930000927.jpg
↑駅弁は,鉄道旅にはなくてはならないものである


 腹がくちくなると,レールの「ガタコンー,ガタコンー」という振動,そして車窓に見える信州の景色が最高の睡眠薬。夢と現を行きつ戻りつ,若い頃の恋人のことなどを図らずも思い出してしまい,いささかセンチな気分になる。

 ま,こんなセンチメンタルさもまた,鉄道ひとり旅の魅力だ。

 塩尻で中央西本線に乗り換えると,線路は木曽谷に沿って南へ向かう。木曽路は山の中・・・は,藤村か? 迫るような木曽の山が少しずつ広がりとゆとりを見せはじめるころ,ようやく目的地の美乃坂本へ到着。

 駅で1年ぶりに,棚田さんと再会。車で本日お世話になるご実家へ案内される。

 久々の再会ゆえ,ひとしきり近況を語った後,「ではさっそく,『斬り』の稽古(試斬)から始めますか」とのこと。

 さてさて,修行の始まりである。

 稽古着に着替え,前庭に出る。「市村さんのご流儀で斬ってみますか? それとも当流のやりかたでやってみますか?」と水を向けていただいたので,迷うことなく「せっかくですから,中津川稽古会の運剣をご指導いただければ」とお願いする。

 これは余談であるが,武術交流や交換稽古に出たのに,かたくなに他流の実技を学ぶことを拒むタイプの武術・武道人がときおりいる。それはそれで,ひとつの見識だとも思うのが,個人的には,せっかく他流の方と交流する機会があるのだったら,相手が不愉快でなければ,可能な限り,相手のご流儀の技や練成法などを学ぶように心がけている。私はそれが本来の,武者修行の意義だと思うのだがいかがだろう?

 広く他流に学び,取り入れるべきところは取り入れ,原理原則としてそれが自分の動きに接合できないことでも,武の経験知として吸収しておくこと。これが市村流「流れ武芸者」の心得である。

 さて,庭に斬りのための竹を設置。まずは戸山流居合抜刀術美濃羽会の基本的な素振り,剣の運用などついてご指導いただき,いよいよ実際に斬りの稽古へ。

 ところで私の試斬経験は,中学生の頃,お遊び程度で,親指ほどの太さの姫竹を真剣で斬ったことがある程度。事実上,初めての,本格的な斬り稽古の体験である。

 もちろん緊張感もあったが,一方で,「自分がいままで稽古してきた剣術や居合が,どの程度,実際の斬りで通用するのだろうか?」という好奇心の方がさらに強かった。

 とはいっても,あくまでも体の運用や剣の扱いは,この場でご指導いただいた戸山流の体動で行うことは言うまでもない。

 はじめは親指よりやや太い程度の竹から。これを刃引きの真剣で,袈裟に斬って落とす。

 その後,段階的に試物を太い竹に変えていき,最終的には直径60ミリほどの竹を袈裟に斬る。

 結果的に,1時間ほどの斬りの稽古で,斬り損じたのは3回ほど。あとはすべて,一刀両断することができたのは,われながら意外であり,また満足であった。

DSC_0215_convert_20080930000400.jpg
↑不肖・市村翠雨が斬った,直径60ミリほどの竹。以後はペン立てとなる予定である


 しかも,自分としては,最初から最後まで,あくまでもご指導いただいた戸山流の体動で動いていたつもりだったのだが,後で伺うと,「右側に軸を立てた,独特の動きでしたね」と指摘され,知らぬうちに,私が若い頃に打ち込んだ抜刀術の袈裟斬りの動き+伝統派空手道の体動が加味された,「オレ流」の動きになってしまっていたようであった。

 それはそれで,「自分が学んできた流儀は,それなりに遣えるのだな」と確認できたことは,学びであり,喜びである。

 いずれにしても,棚田さんのご指導もあり,事実上,初めての斬りの稽古体験であったが,たいへん充実し気づきの多い稽古となった(武術的な内容や学びのポイントについては,後日,改めてまとめる予定)。

 稽古後,近くのラドン温泉で一汗流し,さらに夕食は,棚田さんのご友人が営んでいる,隠れ家的創作和食のダイニングで。前菜から小鉢,刺し盛,揚げ物,焼き物などなど,旬の素材を使った実に美味な創作和風会席の数々と,ご主人イチオシの吟醸酒に舌鼓。そしてまた,武術談義に花が咲く。

 学びの多い稽古,季節の美味,うまい酒,そして信頼できる武の先輩との忌憚のない武術談義。武術・武道人でいてよかった! っと想える,至福のひと時である。

 酒宴の後は,さらに棚田さん秘蔵の古武道関連ビデオを鑑賞。そして,就寝。



日曜

 朝食後,9時から,戸山流居合抜刀術美濃羽会中津川稽古会の定例稽古に参加させていただく。

 広々とした体育館で,木剣を無心に,そして思い切り振るう。戸山流の基礎居合,そして組太刀の稽古に参加。いずれもシンプルながら,質実剛健,大なる刀勢を練磨する,豪快な太刀筋の稽古である。

 個人的に,こういう太刀筋と運用,私はたいへん好きである。

 また,「実際に闘える剣の稽古」とは,本来,こういうものなのだろうなとも思う。


 ご流儀の稽古後は,場所を移してささやかながら,手裏剣体験教室を開催。中津川稽古会のみなさんに,棒手裏剣を体験していただく。

 それにつけても,お手本となる私の打剣がイマイチ・・・。そこんところは,軽薄・・・もとい軽妙なトークでみなさんを煙に巻き(「口(くち)合気」とは,便利な技だ・・・),長剣や重量剣,軽量剣などで,直打を体験してもらう。

 手裏剣体験の後半は,近距離・軽量剣使用で,ご流儀の体動をそのまま活かした手裏剣の打剣を体験していただいた。

 興味深かったのは,居合抜刀術の経験数回(?)という初心者の女性の方が,たいへんスムーズで理にかなった滑走打法で,2間距離でほどよい刺中をしていたことである。やはり,余計な力みやクセのないことが,よかったのだろう。

 経験者は初心者に学べ! は,不易の哲理であると,改めて実感。

 また,みなさんが普段稽古されている,戸山流の正面斬りの体動そのままで,軽量剣を2間ほどの距離で打剣していただいたところ,みなさん全員が,勢いのある良好な滑走打法の直打で,刺中を得られていたことも印象的であった。これは,みなさんが,普段からご流儀の体の運用に沿った,理にかなった稽古をしており,その動きを習得されていることを示しているといえよう。

 いずれにしても,多少なりともみなさんに手裏剣術の面白さ,難しさ,意義を感じていただければよかったかなと思う。

 その後,昼食を済ませ,私の希望で,近隣にあるラジウム温泉へ案内していただく。柔らかい湯と,しっかりとラジウムを含んだ湯煙が満たされた小ぢんまりとした湯殿で,稽古の疲れをいやす。

 15時すぎ,棚田さんに駅まで送っていただき,学び多く,また美味と美酒,良い湯,なにより良き武の仲間と交流することができた,充実した修行の旅が終わった。

 再び機会を見つけ,山紫水明で人心穏やかな恵那の地で,みなさんと共に稽古がしたいと願いながら,江戸への遠い帰路についた。
スポンサーサイト
この記事のURL | 武術・武道 | ▲ top
| メイン |