柳剛流の戦い方(その2)/(柳剛流)
- 2016/04/08(Fri) -
 長尾進教授執筆の論文、『試合剣術の発展過程に関する研究-「神道無念流剣術心得書」の分析-』(https://www.jstage.jst.go.jp/article/budo1968/29/1/29_17/_pdf)で、もう1つ興味深いのは、当時の剣術における構えの重要性である。

 本論文の考察対象となっている、神道無念流の武藤七之介が記した『神道無念流剣術心得書』では、各流の試合口(技術的特長)の文頭に、必ずその流儀の構えについての記述があるという。

 これについて長尾氏は、他の古文書も合わせて検討した上で、

 「他流試合活発化の初期段階において、対戦相手の構えについての情報というものが貴重であったことを窺わせる」

 と指摘する。

 さらに『神道無念流剣術心得書』では、

 「すべて他流試合は敵上段ならば此方勢眼、敵勢眼か下段ならば此方上段と、敵せざるところを此方にてすべし。これはその場に臨みて見切り専要なり」

 と、いわゆる「合気を外す事」の重要性を強調しているのは、たいへん示唆に富んでいるといえよう。

 共通ルールの徹底によって術技が均質化した現代の撃剣とは異なり、流派ごとの技術特性がいまだに色濃く、思わぬ一手が成立しえたこの時代の撃剣稽古、あるいは当時の剣士が想定していた実戦としての斬り合いにおいては、現代の武術人の想像以上に、「構え」というものが重要だったのであろう。

 これは以前、本ブログで指摘したことだが、たとえば駒川改心流の黒田泰治師範が執筆した名著『剣術教書』では、駒川改心流剣術の構えとその意味、それぞれの構えからの打ち込み方やその構えへの対応などが、じつに31ページにわたって詳述されている。

 あるいは柳剛流では、切紙の段階として初学の者に「備之伝」として15種類の構えを教え、目録では「備十五ヶ条フセギ秘伝」が伝授される。

 こうした例からも、古流剣術では「構え」とその運用法が、たいへん重視されていたことが分かる。


 さて、それでは柳剛流は、どのような構えで撃剣に臨んでいたのだろうか?

 『神道無念流剣術心得書』によれば、柳剛流は勢眼・上段・陰の構えを取るという。

 これに対して他の諸流は、たとえば一刀流は下段、直心影流はもっぱら上段、鏡心明智流は左足前上段、新陰流(肥後)は勢眼、そして神道無念流は勢眼・上段に構えるという。

 前回紹介した試合口では、柳剛流は「五尺の体をきらいなく打つ」として、最も多彩な打突部位を誇っていた。

 構えにおいても、他流が1~2種類であるのに比べ、柳剛流は「勢眼・上段・陰」とより多彩であったようだ。



 平成の今、古流の剣を学ぶ我々は、ともすると構えについて「形骸化した様式」と捉えかねない。

 しかし、往時の剣士たちの生の記録から学べるのは、「構え」とはそのような形骸化したものではなく、いきいきとした「術」そのものであるということだ。

 逆説的にいえば、現代に古流の剣を学ぶ我々は、

 「構えを『術』とするレベルにあるのか?」

 を、常に己に問うていかねばならない。

 (了) 
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