杉浦日向子の『合葬』/(書評)
- 2015/07/10(Fri) -
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 杉浦日向子が鬼籍に入ったのは、ちょうど10年前、行年46歳だった。

 気がつけば、自分がその歳になっている。いやはや・・・。


 幕末、彰義隊に投じた3人の青年の姿を描いた漫画『合葬』は、杉浦作品の中でも特に好きでしばしば手にとって読む。

 この人はもともと時代考証家を志していたそうで、漫画家として名を成した後、実際に時代考証家としても活躍しただけに、本作でも江戸の風俗描写が全体としてうそ臭くない(重箱の隅をつつきだしたらきりがないだろうが)。

 部屋で浴衣をだらしなく着崩しながら、新内のCDをBGMに冷酒片手でこの作品を読んでいると、なんとなく江戸の世に迷い込んだような気分が楽しめる。


 彰義隊といえば、柳剛流の剣士も数多く、その戦いに身を投じたという。

 幕末の柳剛流を代表する剣客・岡田十内叙吉は本郷森川町と郷里の下戸田に稽古場を開き、その門弟は1,200人とも1,400人ともいわれた。

 上野戦争においては、十内の門弟が幕軍側に約300名、官軍側には約200名参加したと伝えられ、なかでも幕府陸軍調役で彰義隊頭取となり上野で戦死した伴門五郎は、そういった柳剛流剣士の代表格として後の世に伝えられている。


 ところでこの『合葬』という作品、映画化されてこの秋公開されるということを、ほんの数日前に知った。

 もうひとつの杉浦漫画の傑作である『百日紅』がアニメ映画化されたばかりだが、最近、杉浦日向子ブームなのか・・・?

 ま、イケメンに擬人化した日本刀が流行るというのも悪かあないだろうけど、杉浦作品がこれからもより幅広い世代に読みつがれる方が、個人的にはうれしい。

 (おしまい)
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ポストアポカリプスの大叙事詩/(書評)
- 2015/06/04(Thu) -
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 スティーブン・キングの小説の中でも、もっとも好きな作品がこの『ザ・スタンド』だ。

 分厚い文庫で全5巻という大叙事詩ながら、毎年1回は読み直している。そしてまたここ数日、いろいろと忙しい生業の合間や、寝る前のベッドの上で読み返しはじめてしまい、止まらない(笑)。

 この物語は、一見、キリスト教的な善悪の二元論のようでいて、実は人はだれでも善の側から悪の側へ魅入られる可能性を持ち、あるいは悪をなしながら結果として善をなすこともあるといった、人生の矛盾や多面性をいきいきと、そして詳細に描いていて興味が尽きない。

 私自身、いつ何時、「闇の男(ウォーキング・デュード)」に魅入られるか分からない、いやすでに魅入られてしまっている哀れな存在なのかもしれない・・・。

 ハロルドの魂が、神に祝福されますように。

 (おしまい)
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『不良少女と呼ばれて』/(書評)
- 2015/05/27(Wed) -
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 以前から読んでみたかったこの本、ヤフオクで落札して読了。

 それにしても、なんでこの原作内容で、「あのドラマ」になるのかが実に不思議である(笑)。作者は、あのドラマを見て「私は、こんな怖ろしいことはしていないのに・・・」と、かなりショックを受けていたという。

 本書には、戦後の混乱期をたくましく生き抜いた少女の心の葛藤が、丁寧にわかりやすく、そして素直に書かれていて好ましい。

 また、舞楽という伝統芸能に出会い、それを極め、普及してゆく姿は、日本武術という伝統芸を嗜む者として、感動的に読むことができた。特に、東京まで出てきて師につき、働きながら舞を覚えるという場面は、同じような経験をしてきた者として、とても共感ができるものだった。

 作者は数年前にお亡くなりになったということだが、今も彼女が受けつぎ、守り、育ててきた舞楽は、後進に受けつがれているという。機会があれば、ぜひ観てみたいと思う。

 (了)
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『逝きし世の面影』/(書評)
- 2015/01/05(Mon) -
 なんとなく体調不良のまま年末年始が過ぎ、週末からすでに仕事始め。今日は午後から、霞ヶ関でインタビューである。

 そんなこんなで、今年の正月は例年に比べると映画も数えるほどしか見ず、酒もあまり飲まず、淡々と時が過ぎた。ま、そんな年もあろう・・・。


 年末年始にじっくり読もうと買っておいた『逝きし世の面影』(渡辺京三著/平凡社ライブラリー)は、新年早々たいへん興味深い読書体験となった。

 武芸をたしなむ者であれば、『剣術修行の旅日記 佐賀藩・葉隠武士の「諸国廻歴日録」を読む 』(永井義男著/朝日選書) と合せて読むと、江戸時代という"特異で幸福な時代”が、たいへん豊かにイメージできるだろう。

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▲「私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の生存をできうる限り気持のよいものにしようとする合意とそれにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ」。近代に物された、異邦人によるあまたの文献を渉猟し、それからの日本が失ってきたものの意味を根底から問うた大冊。1999年度和辻哲郎文化賞受賞。(以上、アマゾンより引用)

 (了)
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夏休みの図書-『世界の謎と恐怖』/(書評)
- 2014/08/01(Fri) -
 夏になると必ず思い出すのは、小学校3年の夏休みに修善寺駅前にあるN倉書店二階の児童書籍売り場で買った、『世界の謎と恐怖』という本だ・・・。


 当時、昭和50年代前半というのは、昭和40年代後半に始まり、結果として後のオウム事件にまでつながるオカルトブームの真っ只中であった。

 夏休みともなれば、子供たちは「あなたの知らない世界」の再現ドラマに震え上がり、「ルックルクこんにちは」(だったと思う・・・)のオカルト特集で、人間の生き血で描かれた掛け軸の首の絵の目が開く事件に大騒ぎとなった。

 夜になれば、CXの時代劇スペシャルでは怪談系時代劇が毎週放映され、あるいはまだ人間国宝になる前の一龍斎貞水先生の語る「真景累ケ淵」を涙目になりながら聞いたものである。

 そんなオカルトブーム全盛期に読んだ本が、『世界の謎と恐怖』であった。

 あれから幾年月。

 ネッシーもモケーレ・ムベンベも、月の人面岩も人体自然発火も、お岩さんの呪いもノストラダムスの大予言も、みんなガセだと知ってしまい、かつての夢いっぱいの少年は、世の中を斜めに見る、限りなく唯物論者に近い不可知論者の大人になってしまった。

 そこで、少し童心を折り戻そうと、37年ぶりに『世界の謎と恐怖』を買ってみた。

 ちょっと前までは、こうしたニッチな古書は、神田・神保町あたりで気合を入れて探さないと見つからないものだったが、いまやネットの「日本の古本屋」で検索をかければ、1秒もかからずに販売書店がずらっと示され、キーボードをぽちっとするだけで、2~3日後には料金代引きで古書が手元に届くのである。

 便利な時代になったもんだねえ・・・。

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▲この表紙! あまりにも鮮明に記憶に刻まれていたものだ。忍び寄る自縛霊!? そして恐怖の地底人! ああ、昭和だなあ・・・


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▲本書収載のエピソードの中で、当時の私が最も好きだった「悪魔のおどる島」のイラスト。地底人に遭遇した探検家の図


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▲1968(昭和43)年の初版発行から4年で14刷というのだから、かなり売れたんだねえ。なにより、筆者はあの伝説の空手家・真樹日佐夫先生であることに注目!


 この本を開いて、呪いのダイヤや踊る棺おけ、ツタンカーメンの呪いやアマゾンの大蛇の話に胸躍らせていたのは、もう40年近く前のことだ。

 古書特有のしみ臭い匂いが、不思議に懐かしい。昭和は遠くなりにけり・・・。

 (おしまい)
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